もうすぐで降りる駅だ。
そう頭で認識しつつ、中吊り広告を適当に読んでたら、繋いでた手の力がぎゅっと強くなった。
何だろうと思って視線を移せば、困ったような顔して口を結んでる。よくよく注意すれば、手も震えてるような…?
混雑で気持ち悪くなったのかもしれない、と思って「大丈夫?」って声をかけようと思って口を開いた時。
目に飛び込んできたのは、栄口の体を撫で回す、俺じゃない男の手。
一瞬驚いたけど、すぐにカッと頭に血が上ってくのが分かった。
「…お前、何してんだよ!!」
栄口の背中から腰あたりを執拗に撫でる手を捕まえ、逃げられないようにギリギリと足を踏みつける。
40代ぐらいのスーツを着た男が、腕と足の痛みでなのか、小さく悲鳴をあげた。
「何してたかって聞いてんだよ!!」
「み、みずた…!」
自分でも驚くぐらいの低い声で、男を追い詰める。ほぼ満員状態だったはずなのに、俺たち二人の周りに空間ができた。
「す、すいませ…!」
か細い声で謝られても、許す気など到底沸いてこず、怒りが膨れ上がってくのが分かる。
その怒りに任せて右腕を振り上げた時、横から栄口に止められてしまった。
「な、殴ったら、だめだって!」
震えつつも、必死に俺の腕を抱きしめてくる栄口。
その間に我に返った大人たちの一人が、自分は警察官だと名乗り、次の駅で男と一緒に降りようと提案してきた。
怒りは燻ったままだったけど、栄口にも宥められてしまい…降りることにした。
***
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