* * *
「よう」
「…こ、こんばんは」
自転車から降りてる阿部くんを、あんまり見ないように俯きながら 一応挨拶をする。
待ってる間に雨は止んだけど…阿部くんの髪がちょっと濡れてる。
謝るタイミングは今なのかな、怒られた後かな、なんて考えてたのに…ちらっと見た阿部くんは、少し笑ってる気がした。
「少し歩こうぜ」
「…?」
怒りに来たんじゃないのかな…?
俺が返事をする前に、自転車を置いて左腕を引っ張られちゃった。
「っとに、お前はいつまでたっても初々しいな」
「…え?」
誰も通らない、夜の道路。
静かで暗くて、星も月も出てない。
あるのは電灯と、阿部くんと、俺だけだ。
「今日は部活なかったからな。それで変な夢見たんだろ」
「??」
「疲れてたらすぐ寝れるだろ。疲れてねーから、浅い夢見たんじゃねーの?」
「…あ、そっか…」
てくてくと歩きながら、なるほど と納得する。今日は朝から雨だったから、朝練もなかったしなぁ…。
「ちょっと散歩すれば、疲れて眠れるかもしんねーだろ。っても、三橋一人で出歩かせるわけにはいかねーし」
心配だから、って言いながら…そっと手を繋がれる。手を繋ぐなんて、外でしたことないから、すごくビックリしちゃった。
な、なんか顔が熱い気がする…!
「ははは、顔真っ赤だぞ」
そう笑われちゃうと、ますます熱くなっちゃうのに…!
見られないようにグッて俯いたんだけど、「電柱ぶつかるぞ」って注意されちゃった。
「…あのさー」
「は、はいっ」
「夜の散歩ってのもいいかもな。静かだし」
「…そ、そうですね」
機嫌良さそうに歩いてるけど…もしかして、怒られないのかな?
そう思った途端に、重かった気持ちが ふわっと軽くなった気がする。
「紫陽花も終わってるな」
「…うん、そうだ ね」
誰かの庭の紫陽花が、道路にはみ出てる。
葉っぱだけが元気で、花はほとんど散ってしまっていた。
「毒あるらしいぜ。食べるなよ」
「どく? あじさい、が?」
「そう。腹減っても食うなよ」
「た、食べない よ!」
必死に否定すると、阿部くんがハハッて笑った。
紫陽花食べても、おなか膨れないもんね?
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