「三橋。悪いんだけど、ちょっと話あるから、残っててくんねぇ?」
「は、なし? う、うん…」
「よし」
そう言って、阿部君は花井君のとこに行ってしまった。
監督と3人で何か話してる。おれには分からない内容。
『話あるから』って、何だろう?
まさか、キャッチャーやめたい、とか…?
それとも…阿部君、もしかして…
おれのキモチ、気づいちゃったとか…?
●●恋の意地悪問題●●●
「じゃーね、三橋。阿部も」
「あぁ」
「おっさき〜!」
「う、うん! ま、また明日…!」
阿部くんとおれ以外、誰もいなくなった部室。
シン…と静かになったここで、おれは何を話されるんだろうか。
阿部くんは制服に着替えていて、おれはとっくに着替え終わってる。
何だかそわそわして、おれは一人でわたわたしてしまっていた。
キャッチャーやめる、ってのは、たぶん、違う。
阿部くんは約束してくれたもん。
『お前のキャッチは全部俺がやる!』って。
て、ことは…
ぞわっと背筋に悪寒が走る。
バレちゃいけない感情。
バレちゃったら、その約束まで破られてもおかしくない感情。
阿部くんは、頭いい。
おれの視線の意味なんて、もしかしたらとっくにバレちゃってるのかもしれない。
「三橋」
「ぅ、は、はははい!!」
「…でけー返事だな」
阿部くんが呆れたように笑う。
その笑顔にさえ…胸が締め付けられる。
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