「…ヨかったのか?」

「へ?」

「その人と、セックスしたんだろ?」


何でもないように言いたかったのに、少し声が震えてしまった。
気づかれただろうか。
こんな弱い自分を、悟られたくないのに。

しばらく沈黙が流れた後、小さく「…したよ」と呟かれた。

分かってたはずなのに、また胸にズキンと痛みが走る。
その答えに、俺はもうただ俯くだけで…何も言えなくなってしまった。

「…それと、泉に何の関係があるんだ? もう昔のことだし。それに、そん時は本当に、誘われるままに、興味本位ってのもあって――」

浜田の言い訳なんか、もう聞きたくない。
言わせてるのは俺だけど…凄く、ムカつく。

イライラが止まらない。
浜田を黙らせたくて、つい。

「ふーん。じゃあ、俺も興味本位なんだ?」

…なんて、言ってしまった。
その言葉で、場の空気が一瞬にして凍りついたのが分かった。

あ、と思った時にはもう遅く。
隣にいる浜田を横目で見れば、怒ってるとも傷ついてるとも言えない顔をしていた。

そんな顔をさせたいわけじゃないのに。
どうして俺は、いつもこんな…。

「男ってどんな感じかなー、ってか? ハハッ…」

場を和ませたくて冗談を言っても、無意味だった。むしろ自分の言葉で自分が傷ついてる。
乾いた笑いが響いた部屋で、痛みと情けなさで涙が込み上げてくる。

「…帰るわ、じゃーなっ…!」

沈黙に耐えられなくて。
泣きそうな顔を見られたくなくて。

居た堪れなくなった俺は、鞄を引っつかんで部屋を出ようと立ち上がった。


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