「栄口、ちょっと相談あるんだけど…」
「うん…? 今?」

「いや… 昼とか…」
「うん、分かった。早弁しとくね」


●●その手を はなさない●●●


泉に呼び出され、待ち合わせ場所の部室へ向かう。
浜田さんとケンカでもしたのかなって、こっそりと田島に探りを入れたけど、特にそんな事はないらしい。

じゃあ、泉自身の悩みかな…なんて思いながらドアを開けると、泉がすでに座って待っていた。
力のない声で「よう」と挨拶されて、それに返事しながら俺も隣に座る。

「お待たせ。早かったね」
「あぁ。俺が呼び出しといて、遅れるのも悪いと思って…」

「気ぃ遣わなくていいのに。…で、どうしたの?」
「あぁ、うん… えーっと…」

「何かあった?」
「うん… 一昨日、浜田ん家で映画見てたんだけど…」

歯切れ悪そうに話す、相談内容とは。
どうやら、浜田さん家で見た映画のストーリーが、納得出来なかったらしい。

主人公を助けるために、恋人が命を差し出すシーンがあって…
それに浜田さんは泣いてたみたいなんだけど、泉はその反対だったみたいなんだ。

「命と引き換えに守ろうなんて、馬鹿げてる。そんな事されても、残された方はどうすんだって話だろ」
「うーん、そうかも…」

「…実は、前にも似たような映画を見たことがあるんだ。それは映画館で見たんだけど」
「ふーん、浜田さんと?」

「そう。そん時は男が死んだけど…同じ感じだった」
「そっかぁ…」

泉が言いたいのはきっと、映画内容が不満だったんじゃない。
きっと、それを自分と浜田さんに重ねて…不安になってるんだ。


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