* * *
太陽がすっかり傾いて、気が付いたらもう夕暮れだった。
楽しい時間ってのは、本当にあっという間なんだね。
オレンジ色が濃くなっていく街並みを、1歩分だけ先に歩く水谷についていく。
俺も家の事とかあるし、帰らないといけないのは分かってるんだけど…名残惜しいな。
もっと一緒に居たいって言えば、水谷はどうするかな。
まだ帰りたくないよって言えば、どんな顔するんだろう。
…あぁ、またこの厄介な感情が顔を出してきた。
気を抜けばすぐ忍び寄る心の影に目を逸らして歩くと、水谷が「ちょっと寄ってかない?」って公園を指さした。
あぁ、良かった。
まだ一緒に居られるんだ…水谷も、一緒に居たいって思ってくれてる?
心の中で誰にも届かない問いかけをしながら、二つ返事でOKする。
夕焼けに照らされながら「公園貸切りだねー」って笑う水谷の横顔は、どうしようもなく眩しくて。
…今なら、伝えられるような気がする。
言ってみようか、初めて会った時から水谷の事…って。
心は水谷に近づきたいってアクセル踏んでるのに、拒絶されたらどうしようと思うと、体にブレーキがかかって声が出ない。
先にベンチに座り、「お茶買ってくるねー」と自販機にお金を入れる水谷の背中を見ながら、自分の手を握った。
寒いわけじゃないのに冷たい手。緊張してるんだ。
どこかにサードランナーいないかな、なんて自嘲する。
ランナーどころか、公園には誰もいない。
たまにカラスの鳴き声が聞こえるぐらいで、本当に静かだ。
緊張し過ぎて、耳も聞こえなくなってるのかもしれない。
いや、自分の心臓の音が大きすぎて、それ以外が入って来ないだけなのかも…
ぐるぐる考えてると、「はい、これ栄口の分だよ」と熱いミルクティーを手渡された。
冷え切ってる手に、熱い缶は火傷しそうなくらいだ。
「ありがとー、いくら?」
「頼むから、これだけでも奢らせて…!」
そうお願いする水谷がおかしくて、迷ったけど甘える事にした。
それに水谷がすごく嬉しそうにしていて、手は冷たいのに体がカーッと熱くなる。
…今が夕方で良かった。
そうじゃなきゃ、顔が赤くなってる言い訳が出来ないもん。
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