* * *
「…スゴイね水谷、何でそんなに知ってるの?」
「あちこちにアンテナ張ってると、勝手に引っかかってくるんだよ〜」
俺の賞賛に屈託なく笑う水谷に、勝手に胸が飛び跳ねた。
誘われてから今まで、どこか落ち着かない日々を過ごして、ついに当日。
言われるがままに連れられた定食屋さんは、味も量も値段も大満足のお店で。
そこまで俺も情報に疎いわけじゃないと思ってたけど、食べながらあちこちのオススメを教えられて、素直に感心してしまう。
「あ、そうだ! 栄口もケーキ好きだったよね?」
「うん、あんまり食べてないけど…」
「じゃあ、ここ出たら食べに行かない? ミルフィーユとティラミスがおいしいお店があるんだ〜v …あ! えと、栄口が良かったら、だけど…」
急に我に返ったように、目が泳いで声が小さくなった。
緊張してるのが俺にも伝わってきて、心にも侵食していく。
この水谷の仕草は、最近は顕著だ。
その真意を確かめる事も出来ないまま、今に至るわけだけど…
「…もちろん、行きたい!」
「ほ、本当!? 良かった〜…!」
ここから近所だし、安くておいしいんだよって笑顔で言いながら、今度は安堵してるのが分かる。
水谷って、すぐ顔とか声に出て分かり易いんだよな。
…ここ最近ずっと考えてる、水谷に対しての「もしかしたら」。
聞いてみたい、本当は俺の事どう思ってる?って。
でも、もし俺の自惚れだったら…そう考え始めてしまうと、立ち止まってしまう。
俺の期待する真実じゃなかったとしたら。
分かり易い水谷の言動や表情を、読み違えていたとしたら。
「それじゃ、善は急げ! すぐ行こ!」
「う、うん!」
お会計をしにレジに伝票を持っていく水谷の後に続きながら、こっそりため息をつく。
どこまで臆病なんだ、俺ってば…
たった一言で、済むはずなのに。
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