「ていうか、その理屈だと体裁ばっかじゃないスか。かぐさんの気持ち全然聞いてないんスけど」

ズズイッと近づかれて、俺もそそそと後ろへと下がる。
すると、また榛名が近づいてきて、俺もまた同じく後ろに下がる。

いや別にコントやってるわけじゃないんだけど、ちょっと榛名の雰囲気が怖いような気がして、一定の距離を保ちたいというか…
それを何回か繰り返している間に、いつの間にかカシャンと背中にフェンスにぶつかってしまい、逃げ場所が無くなってしまった。

「もう逃げ場はないッスよ」
「う…」

俺の心でも読んだのか、榛名の両手が俺の体を間に挟むようにして、後ろのフェンスを掴んだ。
か、完全に捕まってしまった…
ここから逃げるとしたら、2mぐらい上にジャンプしねーと無理だ…

「…かぐさんて、ずるいッスよね。卑怯です」
「な、何でだよ…」

「俺の気持ち振り回して、楽しいスか?」
「はぁ? お、俺の方が振り回されてるっつーの!」

毎日お前の事ばっか考えさせられてんのに!
お前が俺に好きだなんて言ってこなけりゃ、自分の気持ちに気付かないで済んだのに…!

「かぐさん、俺の事嫌いッスか?」
「……い、いや、別に…」

「じゃあ、好きなんスか?」
「…そ、それは〜…」

今の自分の目が、全力で泳いでるのが分かる。
真上の夜空を見上げながら言い淀んでると、榛名がデッカイため息をついた。

「…迷惑なんスか?」
「え…?」

「迷惑なら迷惑だってフッてくれればいいじゃないスか。そうやって期待だけ持たせて返事誤魔化して、そんなのないッスよ…」
「……」

今まで強すぎる視線だったのに、辛そうにして目を背けられた。
あの自信家でプライドの高い榛名が、俺なんかの事で傷つくなんて……


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