時は安土桃山。
真冬の寒さが身に染みる夜中、火鉢を近くに置いて暖をとる。

蝋燭の灯りを頼りに、今夜も俺は研究に没頭していた。幾つもの書を読み漁り、知識を頭に詰め込んでいく。

隣の部屋からの微かな寝息を聞きながら、俺は…――俺たちは、生きる為に必死になっていた。


○○桃色吹雪○○○


「迅、おはよう」
「おはようございます、慎吾さん…」

小さな声で返事をする迅の顔は、青よりも白に近かった。
未だに降り積もる雪のように、白くて頼りない。

その頬を優しく撫でれば、微かに上げる口元。
ああ、今日も生きていてくれたと ほぅっ…と息が洩れた。

「今、朝飯作るな」
「…あの、慎吾さん」

台所へ行こうと背を向けた所で、声をかけられる。
見れば、いつもと同じように憂いの表情をうかべていた。

「どうした?」
「あの、…もう、」

「構わなくていい、だろ? 何度も聞いた」
「……慎吾さん」

「俺が好きでやってんだ。迅は何も気にしなくていい」
「…でも、だって」

「それも、聞いた。いいから、飯できるまで大人しく待ってろよ」
「……はい」


うっかりすると泣いてしまいそうになるのを、乱暴な言葉で遮る。
釜戸に薪をくべながら、早く春になればいいと願った。


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