「…こいつ、手先が器用なんだ」
「はぁ? それがどうした?」

「だから、この布を、縫って衣服にして、それを町で売ろうって…」

俺の怒りに少し怯えつつも、梓が馬鹿男を庇ってる。
それに続くように、悠一郎も立ち上がった。

「おれの、ここんとこ、こいつが縫ってくれたんだ。それに、廉のここも、文貴のここだって、全部こいつが縫ってくれたんだ」

あちこちを指差しながら、縫合した箇所を見せ付けてくる。
…確かに、その縫い合わせは丁寧で、頑丈になっていた。

「魚や薪より、衣を売った方が高く売れるって。そうしたら、孝介がもっとラクになれるって、こいつが…」

尚治が必死に訴えてくるのに、廉たちもうんうんと頷いている。
…何だ、いつの間にか俺が悪者みたいになってるじゃねぇか。

「俺たち、今日のご飯いらない。孝介の分は、ちゃんとあるから」

隆也が水瓶から魚を3匹取って持ってきた。
そして、もう話は終わりだとばかりに俺に背を向けて反物を広げてやがる。

「ごめんな、勝手なことして…。でも、ちゃんと明日金に変えてくるからさ!」

「…あっそ。好きにしやがれ。でも、今回だけだぞ。これからはちゃんと俺に相談してからだからな!」

「うん、ありがとう!」

なーにが、ありがとうだよ。
結局、その衣が売れなければ意味がないんだからな。

根負けした俺は、家に戻りおふくろが使ってた裁縫道具を一式貸してやった。
こいつのは、針が痛んでて少し錆付いてるし。

それに、またこの馬鹿がいちいち喜んでいて…体だけデカイ子供みたいだ。

とりあえず、魚3匹は子供たちにあげて、俺は空腹で眠れない夜を過ごした。



明日はもっと、働かないとな…。




* * *


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