迅と出会ったのは、桜が咲き乱れていた春の、遊郭だった。
金で体が買えるそこに、淑やかに佇んでいたんだ。
その姿形からはこの場所は不似合いのような気がして、思わず声をかけたんだったな。
最初は警戒心の塊のようだったけど、通いつめていく内に、少しずつ心を開いてくれた。
まるで、硬く閉じた蕾が、ふわっと花開くように。
退屈な毎日に輝きをくれた迅に、俺はあっという間に夢中になった。
贔屓にしてもらい、いずれは手元に置こうと決めていた。
その矢先だったな。
迅が、流行り病にかかってしまったのは。
医者として開業しようとした資金は、全部迅の為に使おうと決めた。
迅はひどく困惑し、治るわけもない病の自分など捨てて、誰かと幸せになってほしいと泣いていた。
迅の頼みでも、こればかりは譲れないと突っ撥ねて、山奥の山小屋に身を潜め、静かに養生している。
だが、その甲斐も空しく、迅の体は見る間に痩せてやつれていった。
ふくよかだった頬や太ももの肉は削げた様になくなり、肌の色は赤みが差すことはなくなった。
食欲がないとほとんどの飯に口をつけずに、ただ寝て過ごすだけの生活。
それでもいい。
ただ、傍にいてほしい。
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