* * *


規則的に、水音が聞こえてくる。
それに起こされるように、ゆっくりと目を開けた。

見慣れない天井。
さらに視界を広げれば、これまた見たことない部屋。
やけに広い…俺が借りてる8畳の部屋の、3倍はありそうだった。

リビングダイニングルームのようで、大きな黒い革のソファーに寝かされている。

立ち上がろうとしたところで、左足首が激痛に襲われた。
そうだ、俺は男を追いかけて、足を踏み外して…

「…あ、あのー」
「…?」

遠慮がちな声。見れば、さっき見た男だった。
見た目は16…いや、同じくらいか?

「だ、だいじょうぶですか…?」
「…ああ。君が助けてくれたのか?」

「…は、はい」
「そうか。ありがとう」

お前が逃げなきゃこうならなかったのに、という思いは見逃すことにした。
助けてくれたのは事実だし、見捨てられなかっただけ良かったな。

(でも、どうやって俺のこと…?)
確かに、俺の体は宙に浮いたはずだ。なのに、ケガが左足首だけっておかしいよな…。

大体、それは宙に浮く前のケガなわけだし…あそこから転げ落ちたとしても、かすり傷くらいあってもいいはずなのに。

「あのさ、君はどうやって俺のこと…」
「あっ、あの! ご飯、作ったん ですけど…!」

それに返事するように、俺の腹がぐーっとデカイ音で鳴った。…そうだ、そういや腹減ってたんだった。
俺の腹の音にそいつが少し笑いながら、目の前のテーブルにカレーとコップ1杯の水を持って来てくれる。

「いっぱいある、から…!」
「…わりーな。いただきます」

デッカイ人参だな、と思いながら、空腹には逆らえられず…素直にご馳走になることにした。

「…なぁ、名前は? 俺は阿部っていうんだけど」
「う、お、おれ!?」

「お前以外に誰がいるんだよ」
「う…お、俺は…。レン、です…」

「ふーん…? 何歳? 俺は19」
「え!! あの、えっとー…!」

名前や年聞くだけで、こんなに慌てる奴も珍しいな。
俺は苗字言ったのに、名前で返してくるし…名前で呼んでほしいってことか?

「16くらい?」
「! そ、そうです!」

年下か。やっぱりな。
体は華奢だし、色は白い。童顔なだけかと思ったけど、まんまだったか。


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