「…ケンカした」
「…え?」
「兄ちゃんと…」
「…へー」
より一層 口を尖らせながら、体育座りをしてる膝の間に顔を埋めた。
つーか、ただの兄弟喧嘩かよ…心配して損した。けど、ここで笑ったらますます拗ねるだろうな。
「…何でケンカ?」
「…俺が、兄ちゃんの漫画に、ジュースこぼして…」
田島も、風呂上りにジュースを飲んでいて、手が滑ったらしい。でも、悪気があったわけじゃないだろうし、ただの事故だろ。
兄弟喧嘩なんてしょっちゅうなくせして、何で今日に限ってこんなにヘコんでんだ?
「素直に謝ればいいじゃねーか。ごめんなさいって」
「謝ったもん! …なのに、」
「なのに?」
「…ううぅ〜!」
思い出したのか、顔がくしゃってなって 俺の右腕に縋ってくる。
暗くてよく見えないけど、涙で目元が光ってるのが分かって、ちょっと焦った。
「ど、どうしたんだよ…?」
「兄ちゃんが、俺が『いつも余計な事する』ってぇー!」
「え?」
「俺一人いなくなっても、困らないってぇー!」
「えぇ〜…?」
「そこまで言うことねーじゃんよー! ばかやろぉおお!」
川に向かって叫ぶと、また下を向いて「うぅ〜…!」って唸ってる。
俺も妹たちとたまに喧嘩するけど、そこまで言い争ったことはねーな。ましてや、ただジュースをこぼしただけで。
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