●●初めて見る表情●●●


「そんじゃ、お先ッス〜!」

同僚に声をかけながら、駆け足で自宅へと急ぐ。泉が待ってる、明るい我が家へ。

ちんたら歩いてたら勿体無い。
だって今日は、泉と付き合いだして5年目記念日。
誕生日とクリスマス、そして今日の記念日は、必ず二人で一緒にいるって決めてるんだ。決めたのは…いつだったっけ?

「た、ただいま〜!」
「おう、お帰り〜」

息せき切ってドアを開けると、泉のビックリした声が聞こえた。靴を脱いで、鞄を置きながらネクタイを緩めてると、泉がクスクスと笑いながら出迎えてくれた。

「お前帰ってくんの早すぎ。何急いでんだバァ〜カ」

それに「だってさ〜」って言いながら奥の部屋へと進むと…そこには数々の旨そうな料理が並んでいた。

「うわ、スゲ〜!」
「さっきまで沖と栄口もいて、手伝ってくれたんだよ。ここまでしなくていいって言ったんだけどな」

いつもはないテーブルクロスまで敷いてあって、真ん中には赤い薔薇と白いカスミ草が咲いていた。
何だかここだけ高級レストランみてぇだな!

「先に風呂入って来いよ、沸いてるし。まだ出来てないのあるから」

クッキングミトンを持った泉に、ぐいぐいと風呂場へ強引に連れられてしまった。…へへ、何か隠してんのかな〜?

「い〜ずみv ちょっと待ったv」
「ンだよ? …わっ!」

台所へ戻ろうとした泉を、背中から捕まえて抱きしめる。案の定照れて怒り出した泉を宥めながら、遠慮なくぎゅうぎゅうと甘えると、観念したのか大人しくなった。

「んん〜v 好きだよ〜v」
「…知ってるっつの、ばかはまだ!」

ぷいっとしながら言う泉の耳が、ほんのり赤い。もう5年もイチャイチャしてんだから、慣れてきてもいいのに。

「いい加減離れろ! さっさと入れ!」

ぺりっと剥がされて、不機嫌そうに台所へと消えてしまった。

でも、俺は見逃してないんだぜ?
角を曲がった時に、一瞬だけ見えた横顔。

ちっちゃくだけど可愛く微笑んだ泉に…キュンと胸が高鳴った。
…はは、俺も慣れてないみたいだな。

こんだけ一緒にいるのに、泉の笑顔はひとつとっても同じのがない。
それは、どの表情をとっても同じコトで。


毎日が新鮮で、愛しくて。

明日も明後日も、
その先もずっと、きっと。


初めて見る表情、だなv





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