If Story

▽ 3


「そういえばアクセサリーは校則違反になるの?ただの装飾品とは違うし、ダメと言われても困るけれど」

あの制服姿に似合うかはさておき、葵には仕上がった指輪を常に身につけさせるつもりでいた。それを告げた時、平静を装いながらも頬を引き攣らせたニコラスの顔が思い起こされる。

「……ブレスレット、してる人は」
「いるんだね」
「あと、ピアスも」

直接的な回答ではなかったが、葵の話を参考にするならば身なりには比較的緩い校風と考えていいのだろうか。そういえば葵の入学時に一度だけ訪れた学校で見かけた生徒の中には、髪を染めている者もいた。それならば葵に指輪を嵌めて登校させたとて、咎められることはないだろう。

そもそも、藤沢家の子息である葵に物言いする教師など存在しないだろうけれど。

「それにしても体に穴を開けるなんて信じられないよ。注射や点滴でも嫌なのに」

葵の発した“ピアス”という言葉に触発され、馨は目の前にある白い耳たぶを食みながらそんな文句を溢す。

ドレスに合うアクセサリーを、という発注に対し、最初にスタッフが提示してきた耳飾りがいずれもピアスだったことに馨は随分と気分を削がれた。それを思い出したのだ。

他人がその体をどうしようと構わないが、葵の体に傷を付ける行為など想像しただけで吐き気がする。葵は頭のてっぺんから爪の先まで全て馨の思い通り、綺麗なままの人形でいなくてはいけないのだから。

「んっ」
「世の中にはここにピアスを付けてる人もいるんだって。それからここにも」

布越しに葵の胸や下腹部を弄れば、葵は怯えたように首を横に振った。するなんて一言も言っていない。むしろ馨が嫌悪する行いだと言っているのに、こういうところも可愛らしい。

「大丈夫。良い子にしていたらそのままの葵を可愛がってあげる。ね?」

縋るように頷いてきた葵をベッドに引き倒し、いつも通り幼い体を征服していく。葵が泣きながら“パパ”と呼び、愛を乞う。ただそれだけで馨を何度でも煽り立てた。

ベビーブルーのシーツにぐったりと沈み込む葵を見下ろしながら、またやり過ぎたことを反省する。一度触れるとどうにも際限なく求めてしまいがちだ。このままではホテルの一件での二の舞になる。また過度に食欲を失わせる事態は避けたい。

学校に通う必要さえなければ全て解決するのに。いや、日本に戻ってきてからというもの、やたらと介入してくる柾さえ居なければ。

そこまで考えて、馨は思考を止める。葵と二人の時間に、世界一嫌いな男の存在は、例え頭の中であろうと必要ない。

「……ぱ、ぱ」
「ふふ、可愛いね。夢でもパパのこと呼んで」

柾を思い出して嫌になった気分は葵の寝言で簡単に浮上する。もう一度繋がりたくなってしまうけれど、せっかく夢の中で過ごしている二人を引き離すのは可哀想だ。キスを落とすだけで済ませ、葵の体に羽布団を掛けてやる。

子供部屋のベッドは二人で眠るのには狭い。今夜はシャワーを浴びて、馨も自室に引き上げよう。そう思い立った時、胸ポケットで携帯が震える。メッセージの送り主は、先ほど指示を出した相手だった。

「さすが、優秀だね」

明日の昼過ぎには指輪の候補をオフィスに届けさせるよう手配をしたらしい。ニコラスのことだから、馨が好ましく思わないデザインは予め排除しておいてくれるだろう。

せっかくだから指輪を渡すシチュエーションぐらいはこだわりたい。そんな追加リクエストを送ってみると、数秒も待たずに了承の返事が返ってきた。


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