If Story

▽ 2


「金平糖」

しばらく悩んだ末に葵が出した答えは、颯斗の予想を大きく外れたものだった。確かに食べ物ではあるが、一番に出てくるような類のものではないと思う。

「金平糖、どうして好きなんですか?」
「小さい頃よく食べてたから」

葵から過去のことを聞くのは初めてかもしれない。昔を懐かしむような表情を見ても、葵にとってはいい思い出として心に残っているのだと分かる。

「元気が出るお薬なんだよ」

葵にそう言って砂糖菓子を与えた人物の予測はついた。ニコラスの前任者で、葵の面倒を長く見ていた人。直接顔を合わせた機会は少ないが、颯斗の親戚でもある。

「あと、お星様の形してるから」
「じゃあ星も好きなんですか?」

ごく自然な会話のつもりだったが、葵は表情を曇らせた。その理由が何かは教えてくれそうもなく、そのまま沈黙が生じてしまう。

こうして面と向かって会話をする機会なんて初めてなのだから、うまくいかないのは想定済み。颯斗は気を取り直し、この場で葵と話しておきたかった話題に繋げてみせた。

「部活、天文部がいいかなって思ってたんですけど微妙ですかね」

部活や委員会に入れという柾の命令に対し、何かしらの策を練らなければと考えていた。運動部は論外だし、文化部であっても葵に妙な絡み方をしそうな生徒が在籍しているところは避けたい。

颯斗の目から見て無難に思えたのが、天文部だった。柾の希望通り、活動頻度は週一と多くはない。二、三年の情報には疎いが、少なくとも在籍している同級生たちは皆穏やかな性格であることは知っていた。

颯斗は月や星に特別な関心を寄せているわけではないが、月食や流星群のニュースが出るとつい空を見上げてしまうぐらいには興味がある。どうせ葵に付き添わなければならないのだからと、自分自身の許容範囲を探った結果だ。

「お星様見るの?放課後に?」
「いや、普段の活動で天体観測は出来ないと思いますけど、長期休みには合宿行くらしいですよ」

四月に配布された新入部員勧誘のチラシを葵に見せながら、事前に調べた内容を教えてやる。

「あとはプラネタリウム作ってるらしいです」
「自分で作れるの?」

今までで一番と言っていいほど、葵が前のめりになった。強く心を惹かれたことが分かる。瞳がキラキラと輝くようにこちらに向けられ、颯斗は思わず息を飲んだ。甘い蜂蜜色だと感じていたけれど、話の流れのせいで星の煌めきのようだなんてキザな台詞が口をついて出そうになる。

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