If Story

▽ 3


美智が二人分のコーヒーをカップに注ぐ頃、ちょうど作業がひと段落したのか、保健医はデスクからソファへと移動してきた。

「藤沢の順位、見た?」
「そっか、今日発表されてるんだっけ」
「さすが。長谷部クラスになると、気にもしないのな」

自分が一位を守ったことはすでに知っているし、他人の順位はどうでもいい。けれど葵に関しては、一日分の解答用紙を覗き見ている。その結果がどうだったかは少し興味があった。

「二十五か。良いほう、なのかな?」
「十分良いよ。学年に何人いると思ってんだ。長谷部の感覚がおかしいの」

一位以外とった覚えがほとんどないからか、二桁というだけでそこそこな気分になってしまう。だが指摘通り、上位であることには違いない。

「でもほら、保健室受験しただろ?あれで色々言われてるっぽくてな」
「色々って?カンニングとかそういうこと?」
「そ。おまけに長谷部が授業抜けたことも広まってる。答え教えてやったんじゃないか、とかな」

好奇心の強い生徒たちが直接彼にも尋ねたのだろう。試験監督としてそんな事実は一切ないと言い切ったようだが、果たしてどこまで通用するかは分からない。

容姿だけでも目立つ転校生。美智たちに抱かれている話も知れ渡っている。その遊びのせいで、授業を何度かサボらせてもいた。この状況で葵が上位に食い込めば、穿った見方をする生徒が出てもおかしくはないだろう。

しかし、順位が掲示されてからの数時間で、想像を膨らませ、保健室にまで乗り込んで真偽を確かめようとするとは。よほど日常に娯楽が足りないのか。

「藤沢、大丈夫そうか?」
「さぁ、そういう話はしないから。でも気にしてないんじゃない?」

意識的にかは知らないが、葵が外野の喧騒に耳を傾けている様子はない。

「真実なんて自分が一番よく分かってるわけだし」

実力で得た順位かどうか。葵本人が答えを知っている。何を騒がれようと、素知らぬ顔で居続ければいい。

「冷たいねぇ。あの子の頑張りを労ってくれる人はいるのか、それが心配だわ」

コーヒーを啜りながら、呟かれた言葉。彼は美智たちの行為を止めることはしないものの、葵のことを気に掛けているようだ。

「葵はそんなに弱い子じゃないと思うよ」
「……そう見えんのか?あれが?だったらやっぱどうかしてるよ、長谷部」

容姿に反して凛とした強かさを持つ、そんなところも気に入っているのだ。否定されてもその考えを改めるつもりはない。

「中途半端に可愛がるような真似が一番残酷だからな」
「似たようなこと、彰吾にも言われたな」

葵の知らない世界を見せてやりたくて、外に連れ出してみようと提案した時だ。

「なら、緒方のほうが“まとも”だな」

普段なら気にならない一言だったけれど、今彰吾と比較されるのは癪だった。

もっと色々な表情を見たい。可愛がり、甘やかしてやりたい。そんな気持ちがそれほどおかしいものなのだろうか。

少し濃く淹れすぎたコーヒーの苦味がやけに染みる。誤魔化すように足したミルクも、気休めにしかならなかった。

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