If Story

▽ 2


「明日どうするだろうね、葵」

颯斗と過ごすことを認めもせず、かといって美智を選ぶことも強いなかった。そのまま文字通り背中を押して帰らせた後ろ姿を見ながら呟いた。

「秋吉が引き止めるだろ」

仮に葵が美智たちのところに来ようとしても、それを颯斗が阻む。彰吾の予想には美智も同意だ。

颯斗は葵を弄ぶ自分達に敵意を剥き出しにしてくる。はじめは葵の付き人として面倒に巻き込まれたという顔をしていたが、嫉妬にも似た感情を纏いだしたことには勘付いている。だから張り合うようにランチにも誘ったのだと思う。

正直なところ目障りでしかないが、まともに相手をするつもりはない。

「葵と二人で遊ぶの、いつにしようか」

元は彰吾のために提案したことだったが、美智にとっても楽しみな計画ではあった。次回とするならば、最短だと明後日になる。問題はどちらが先か。

「今日は譲っただろ」
「あぁ、そうなるよね」

今朝彰吾が反論してこなかったのは、この駆け引きのためでもあったのかもしれない。

五限の始まりを告げるチャイムが鳴るなり、彰吾はそれ以上の会話は不要とばかりに自分だけ先に教室に向かってしまった。美智も彼に倣って階段をのぼり始めたけれど、追いつく気はなかった。あっという間に彰吾の姿は見えなくなる。

「おい、学年首位。遅刻だぞ」

授業に向かう教師に声を掛けられるが、それでも歩調は速まらない。

「はい、これでも一応急いでます」
「どこがだ、ったく。具合でも悪いのか?」

急かすように教科書で肩を叩かれてもちっとも慌てない美智の様子で、教師は顔色を確かめてきた。さっきまで美智が何をしていたかを考えたら愚問なのだが、何も知らぬ教師は至って真面目に生徒を心配してくる。

「そうですね、気分は悪いです」

体はどこも悪くない。だが、胸に嫌なものが宿っているのは間違いない。

季節の変わり目だから、と納得した教師に促されるまま、美智の目的地は保健室に変わった。適当なところで時間を潰してもよかったが、あの保健室は主のおかげで、居心地は悪くない。

「どうした?今日は藤沢いないよ」

訪問者が美智だと分かるなり、保健医は葵の名前を告げてくる。ということは、今この場には誰もいないのだろう。

「知ってる。さっき教室戻っていったから」
「あ、そう。また懲りずに遊んでたわけだ」

呆れを隠しもしない態度をとるが、かといって美智を責めるでもない。明らかにサボりにきた美智を帰そうともせず、彼の視線は再び机に落ちた。何かの書類を書き上げているらしい。

「居座る気ならコーヒー淹れて」

暇つぶしに保健室の中を観察し始めた美智に、彼は教師らしからぬオーダーを口にした。空のマグカップを差し出してくるのだから本気なのだろう。

「坊ちゃんでもコーヒーぐらい淹れられるよな」
「まぁ、味の保証はできないけど。それでいいなら」

彼からカップを受け取り、部屋の片隅にあるキッチンへと向かう。簡易的なものではあるが、一日中この部屋で過ごす保健医の趣味がそこかしこに感じ取れる。

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