If Story

▽ 5*


「どうされたい?」

向かい合わせの体勢に変えて尋ねても、葵は願いを言葉にすることは出来なかった。恥ずかしそうに制服の裾で下腹部を隠し、俯いてしまう。

幼い頃から父親に調教され、こうして彰吾たちにも日常的に犯されるようになった。年齢のわりに性的な経験自体は豊富なはずなのだが、葵は驚くほど初心だ。世間と隔離されて育ったのも要因だろうが、ここまでくると本人の気質に因るものが大きいだろう。

「ミチが色々言わせたくなんのも、分からなくはねぇな」

最近美智は葵から求める言葉をやたらと吐かせたがるようになった。“もっと”とか、“欲しい”とか。趣味ではないと感じていたけれど、葵がねだってきたら確かに可愛いとは思う。

「じゃ、これも昼だな」

所在なさげに揺れる箇所を弾いてやれば、葵の頬はますます赤くなった。今は触ってもらえないと分かって、泣きそうな表情で頷く姿は、やはりどうしようもなくそそるものがある。思わず口付けた瞬間、予鈴が鳴り響いた。

朝礼が始まるまではあと五分。反射的に体を離そうとした葵を押しとどめ、さらに深く唇を重ねていく。舌を絡ませながら、腰を支える手を少しだけ臀部に這わせてみる。まだジェルの残骸が残って濡れる蕾は、彰吾の指を飲み込みたがるようにひくついていた。

「んッ…ん、あ……」

つぷりと第一関節を挿れてやると、待ち侘びていたようにキュッと締め付けてくる。でもそれ以上の侵入はしない。ただその場で揺らすだけに止めると、葵は切なげに体を震わせた。

「どうせ週末は親父と楽しんだんだろ?こっちの気持ちも味わえ」

理不尽な言い分だとは思う。それでも言わずにはいられなかった。

もはや葵以外を抱く気分にもなれないというのに、当の葵は彰吾にわずかな機会しか与えてくれない。そのくせ毎日のように父親に体を捧げている。この後だって、葵を先に抱くのは美智だ。彰吾だけの物になることなどない。

遊びの痕跡をハンカチで拭い、火照った体を無理やり制服に押し込めば、葵は大きな瞳に涙を浮かべた。

「ミチに言うなよ。秋吉にも、な」

自発的に余計なことを喋るとも思わないが、釘を刺しておくに越したことはない。颯斗はともかく、美智にこの抜け駆けがバレると面倒だ。同じ時間、葵と遊びたいと言われても困る。

父親には敵わないとしても、せめて美智より少しでも優位でいたかった。

葵は理不尽なことを強いてばかりの彰吾に、何を思いながら頷いたのだろう。ホールではせっかく会話らしいものが成り立っていたというのに、この部屋に来てから葵はロクに喋らなくなった。

葵の体だけが目当てだった。今更セックスなしの関係に戻ることなど出来ない。でも葵の下手くそな会話に付き合うのは嫌な時間ではなかった。もっと色んな顔を見たいとさえ思う。

心を掻き乱す訳の分からぬ忌々しい感情相手に、彰吾は人知れず溜め息を零した。

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