If Story

▽ side彰吾


土曜から続く雨。まとわりつくような湿気は、ある種密室とも言える電車の中ではさらに不快さを増す。うんざりしながら窓の外を眺めていた彰吾は、振動を感じてポケットの中に手を差し入れた。

携帯の画面を開くと、メッセージの送り主は美智だった。

“今日は俺が先でいい?”

朝の挨拶も無しにセックスの話題を出してくるところが、イカれた彼らしい。わざわざ告げてきたということは、これは相談ではなく譲る気がないという宣言だ。

先を越されたと苛立つ気持ちはあるが、あの美智が余裕のなさを見せた事実は興味深い。週末のあいだ中、飢えた体を持て余したのは彰吾だけではなかったようだ。

彰吾もいい加減、昼休みだけの逢瀬では我慢が出来なくなっていた。美智が個々での時間を作ることを提案してくれたものの、それも所詮昼休みの話。放課後や休日に葵と過ごす方法がないか、ここ数日、そんなことばかりを考えてしまう。

だからだろうか。校舎の正面玄関を抜けた先にあるホールで葵の姿を見つけ、思わず足が止まった。

ホールの壁には、先日の試験結果が貼り出されている。各個人には土曜時点で総合順位が配布されたが、その後こうして全校生徒向けにも掲示されるのがこの学校の習わしだった。発表された日は多くの生徒が一度はホールに立ち寄り、友人や知り合いの名前を探して騒ぎ立てる。

彰吾は他人の順位に興味はない。自分の順位も当然把握しているからこの場に立ち寄ることはほとんどなかったけれど、葵が何位だったのか気にならないといえば嘘になる。

一年の欄を上から辿れば、葵の名前はすぐに見つかった。

「へぇ、すごいじゃん」

背後から声を掛けると葵は相当驚いたのか目を丸くして振り返ってきた。でも相手が彰吾だとわかるとすぐにホッとしたような顔をしてみせる。これが“懐いている”、ということなのだろうか。前回美智が口にした言葉が不意に頭をよぎった。

「あんな状態じゃ正直ダメだと思ったけどな」

保健室に運んだ日の葵の顔色はよく覚えている。全く血の気のない青ざめた顔。そんな彼を相手に、些細な悪戯を仕掛けたことも思い出した。我ながら随分非道な真似をしたものだ。

「……あの、ありがとうございました」
「何が?」
「保健室、運んでもらって。あとゼリーも」
「その礼なら前も聞いたけど」

今まさに葵への罪悪感が膨らみそうになっていたというのに、彼は真っ直ぐな目で感謝を伝えてきた。何ともいえない気まずさに襲われるが、当の葵はあの悪戯については特に何も感じていないらしい。

「つーか、来んの早くない?いつもこんなもん?」

混雑を嫌う彰吾は、学内では登校が早い部類に入る。この時間に登校する生徒の顔ぶれも大体は把握していた。葵とはこの時間に出会った覚えはない。話題を変えるために尋ねてみると、葵は理由が“雨”だと教えてくれた。

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