If Story

▽ 3


「ちゃんと言えた?」

今朝言いつけたこと。それを確認すると、葵はわずかに強張った面持ちで頷いた。

葵は馨の人形だと、そんな宣言を本人にさせれば柾は激昂したはずだ。ただでさえ葵の中で柾は怖い相手だと印象づいている。それがより強くなったことだろう。

もしも葵が馨から逃れたいと考えるならば、柾に頼るのが一番の方法だ。だからその可能性をきちんと潰しておく。愛を囁き、甘やかしてくれる馨ではなく、怒鳴り散らすヒステリーな祖父に縋る選択など葵には芽生えていないはずだ。

「そうやっていい子にしていたら、ずっと可愛がってあげるからね」

葵の腰を引き寄せて耳元で囁くと、コクリと頷きが返ってきた。揺れる髪から馨と揃いのいつもの香りが漂ってくる。それは馨の所有物である証でもあった。

「柾の匂いはきちんと落とせた?」

家に滞在して移った程度のもの。シャワーを浴びれば簡単に塗り替えられることは心得ている。それでもこうして確かめたくなってしまう。

「ちゃんとチェックしようか。どこもかしこも、パパの好きな匂いになっているか」

ただ葵を困らせ、恥ずかしがらせたいわけではない。葵が馨の色に染まっているのかを確認し、安心したかった。

着たばかりのリネンシャツと、揃いのズボンを脱がして、下着姿にさせるのにはそう時間は掛からなかった。ソファの上に仰向けに転がした葵に覆い被さり、その肌にくまなく口付けていく。

「んん……っ」

額から始まり、顔中にキスを降らせると、葵はくすぐったそうに瞼を伏せた。唇まで辿り着くと、侵入を求めるようにわずかに開く。

「葵、舌出してごらん」

馨の命令で、葵はおずおずと舌を覗かせた。唾液を纏い光る桃色の先に口付ける、ただそれだけで手を添えていた葵の腰から震えが伝わってくる。

「……んっ、ふ……ぁ」

控えめにしか差し出されなかった舌を甘噛みしながら引きずり出してやると、葵からは鼻にかかった吐息が溢れた。

物心つく前から日常的に与えてきたおかげで、葵はキスには全くと言っていいほど抵抗がない。でもこうして一方的に舌を弄ばれるのはまだ慣れないらしい。

敏感な表面を歯先でなぞり、十分に体をびくつかせたところで、思い切り吸い上げるとクッと腰が反る。それを繰り返すと、固く伏せられた瞼を縁取る睫毛に雫が滲んできた。

そうしてようやく可愛がる対象を移行させた。舌を解放して華奢な首筋を食むと、口内を蹂躙されなかったのが予想外だったのか、葵は馨へとわずかに視線を送ってくる。

「そんな顔して。キスはまた後で沢山してあげるから」

自分からはしたなく縋ってきたり、言葉で求めてきたりするのは好みではないが、切ない目を向けてくるぐらいのアプローチなら歓迎だ。馨の宣言に頬を染めて頷くところも可愛くて仕方ない。

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