If Story

▽ 3


「葵、もう一度言う。お前は人形じゃない、人間だ。藤沢の跡目を継ぐ自覚を持て」

予想通り、柾は葵を強く睨みつけながらも言葉を続ける。それ以上暴力的な振る舞いをすることはない。青ざめて震える葵には申し訳ないが、ここでニコラスが仲裁に入っても事態を悪化させるだけだ。

「勉強と同じ要領だ。教えられた通りに振る舞えばいい」

それでは結局のところ、葵は意思のない人形のまま。柾はその矛盾に気が付いていないようだ。

「で、どの部活に入るかは決めたのか?委員会でもいい」
「……いえ」

葵は柾の望み通り言葉で返答はしたが、その内容は柾を満足させなかった。テーブルの端に置かれた紙を葵に差し出し、選択を迫り始める。

「今選びなさい」

ニコラスの位置からは紙に書かれた文字までは読めないが、そこには葵の通う学校の委員会や部活の名が連ねられているのだろう。学校に通ってもちっとも対人スキルの上がらない葵を見かねて、強制的に機会を生み出そうとしているようだ。

けれど、葵には選べない。馨に従うことしか知らないのだから。

しばらく沈黙が続いたが、葵はやはり机上の紙を見つめたまま震えるばかりで結論は出そうにない。痺れを切らした柾は、こちらに視線を投げ、そして手招きをしだした。

「意見を聞かせろ」

それはニコラスへではなく、葵付きの颯斗への問いかけだった。

「運動部は論外。葵様に危険のないものに誘導しろ。ただ、ベストはこの場で結論を出させないこと」

全く話が読めていない様子の颯斗に耳打ちをすると、多少は自分の求められている役割を察した顔つきになる。

「委員会のほとんどは四月のうちにクラスから選出済みなので、新たに加入するのは難しいと思います」
「なるほど。“ほとんど”というのは?」
「体育祭や文化祭の実行委員だけは、これから募集するはずです。それから生徒会も一年生からの選抜は一学期の試験結果を受けて、だったかと」

颯斗からの情報で、柾からは委員会の可能性が消えたらしい。今度は部活動についての質問を始めた。

葵に藤沢家の子息らしい振る舞いを身につけさせたい柾は、放課後にその教育の時間を確保することを望んだ。毎日のように活動のある部活は不向き。素行の悪い生徒が所属していたり、実際の活動内容が不真面目なものもふさわしくない。

颯斗は柾の問いに適度に回答しつつも、所々自分の知識不足を理由に言葉を濁してみせた。ニコラスの言いつけ通り、この場で葵の所属する部活を決めることにならないよう、コントロールしようと努めているようだ。

いざとなれば自分が口添えすればいいと、あまり期待はしていなかったが、颯斗もさすがに秋吉家の人間だけあって馬鹿ではないようだ。

結局、次回の呼び出しまでに候補を絞り込むと颯斗が提案したことで柾は納得した。

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