If Story

▽ 2


「今後、会長からの呼び出しも増えるはずだ。くれぐれも失礼のないようにな」
「……それ、俺が毎回付き添うってことですか?」

当たり前のように言われても困る。悪足掻きだと分かっていても、確認をしてしまう。だが、ニコラスからは呆れたような目で睨みつけられただけだった。

約束の十分が経過する前に、扉は開いた。馨に手を引かれた葵の足取りはどこかおぼつかない。きちんと制服を身につけてはいたけれど、泣いた後のように目元と頬を染めているのだから、やはり何かがあったのだろう。

「あぁ、おはよう。待たせちゃってごめんね」

颯斗の姿を見つけ、馨は朗らかに笑いかけてくる。雇用主であるはずだが、ニコラスよりよほど友好的な態度を取られてつい絆されそうになる。でも実の息子にしていることを考えたら、自ずと彼への嫌悪感が湧き上がってしまう。

なぜニコラスは彼に忠誠を誓えるのだろうか。全く理解できそうもない。

「颯斗は柾と会ったことある?」
「いえ、お見かけしたことはありますが、ご挨拶はまだ」
「そうか。うーん、どうしようかな」

馨はしばらく颯斗を観察するような視線を向け、そしてニコラスに声を掛けた。

「今日はニックも一緒に行ってあげて。葵は柾を怖がるだろうし、初対面の颯斗じゃうまく捌けないでしょう」
「かしこまりました」

どうやら颯斗では不安があると判断されたらしい。別に使用人として認められたいわけではないが、これはこれで面白くない。

柾がどんな人物かは分からないが、ただ成績の報告をするだけで少々大袈裟な気もする。颯斗が付き添う必要性すら感じない。でもそれを告げたところで、この場で圧倒的に格下である颯斗の言葉など何の意味もなさないだろう。

「それじゃあ葵、いってらっしゃい。気を付けて」

台詞だけ聞けば、ごく普通の優しい父親の挨拶だ。でも葵の腰を抱き、額にキスを落とす仕草は、まるで恋人のよう。

彼らの関係を知るまでは、これをアメリカ暮らしが長かったゆえのスキンシップの過剰さだと平和に受け取っていた。でも真実を知ってしまうと、直視など出来ない。

自由などまるでない生活を送っているだけでも、葵に対して同情する気持ちは湧く。父親から陵辱されているなんて境遇は哀れでしかない。

本来、葵にとって父親から逃れられて安息の地になるはずだった学校ですら、上級生たちに弄ばれているのだ。昨日も昼休みが終わる時間に教室に戻ってきた葵は、疲れ切っていた。帰りの車ですぐに颯斗に凭れ掛かり、眠り始めたほど。

そして今もまた、車に乗り込むなり、葵は颯斗の肩に頭を預けてくる。

こうして甘えられれば甘えられるほど、まるで首を絞められているような息苦しさに襲われる。葵が颯斗を使用人としてぞんざいに扱うような人物ならよほど良かったのにとさえ思う。

そうすれば、彼の肩を抱いてやりたいとも思わずに済んだ。

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