If Story

▽ 4


「次は来週かな。待ち遠しいね」

最後にと、葵に指を絡めながらキスを落とすと、素直な頷きが返ってくる。美智への恐れは消えていないだろうが、それでも父親以外に構われた経験のなさそうな彼は着実に絆され始めていた。

彰吾にも昼食代わりにとゼリー飲料を手渡され、やはり嬉しそうに礼を言っていたのだから、まず間違いないだろう。

「もうちょっと懐いたら、見せびらかそうか」
「戌井に?」
「でもいいし、他の誰かでもいい」

少なくとも葵はこの校内では美智たちのもの。それを知らしめたくなっていた。葵の背を見送り、三年のフロアへと移動しながら美智は新たに芽生えた欲を口にする。

「やめとけ、見せるだけで終わらねぇだろ」

彰吾の忠告は正しい。美智たちに抱かれて乱れる姿を見れば、自分の手でも泣かせてみたいと強く思うに違いない。

美智だって葵を差し出す気はないが、羨み、悔しがる生徒たちの顔を眺めながらの行為はきっと盛り上がるに違いないと思うのだ。

「彰吾は嫌なんだ?葵が他に抱かれるのも。葵を見せるのも」
「……あぁ」

はぐらかすかと思いきや、彼は正直に葵への独占欲を認めてきた。

前回も、そして今回もごく自然にキスを送っていたところを見て、随分ストレートに可愛がりだしたと感じていたが、彼自身しっかり自覚しだしたようだ。

「もしかして俺も邪魔とか思ってたりする?」
「抱く時間奪われてんなとは思う」

三人での行為を楽しんではいるらしい。けれど、葵を存分に堪能できないのが歯痒いのだともいう。

美智は父親には与えられない愉悦を葵に与え、溺れさせたいと考えている。そのために彰吾の存在は不可欠だ。けれど、彼の気持ちが分からないでもない。美智も葵を独占できる機会があればと思ったことはある。

「じゃあ今度そういう日作る?もちろん、彰吾が葵を独り占めするなら、俺も同じ時間させてもらうけど」

美智の提案に、彰吾が強く惹かれたのが視線だけで伝わる。

「昼休みで葵をちゃんと解放するのをルールにしようか。彰吾は放っておくと際限ないから」
「わかった」

嫌味にも動じず、彰吾は条件を飲んだ。葵を傷付ける行為が禁止なのは当然だが、場所やプレイに関しては互いが自由に設定し、楽しむことに決めた。

いずれこうした遊びに転じることもあるとは想定していたが、思っていた以上に早く彰吾が葵を気に入ってしまった。どことなく機嫌良く自分の教室へと帰っていった友人を見ながら、美智はこの先のことを少し不安視する。

彰吾がもしも三人での遊びを嫌がり始めたら。葵が欲しいと言い始めたら。その時はまず確実に彼とぶつかることになる。

美智もまた、葵を手放す気は微塵もないからだ。

葵には二人に可愛がられることを求めさせ続けるしかない。それしかこの均衡を保つ方法は思い浮かばなかった。

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