Happy Birthday Levi 25/12/2019
12 パネットーネ跳ねて
「なまえ、なーにやってるんだい?こんな時間に」
人気の無い真夜中な食堂。ただでさえ暗いその空間の一番奥。兵団の食を支える大きな厨房の隅っこで、私は小さな蝋燭の灯りを頼りに、とある作業をしていた。こねこね、こねこね。私のお給料を注ぎ込んで購入した小麦粉、北の街から仕入れた特別な酵母、それから卵にバター、お水。それらを少しずつ混ぜてはこねて、混ぜてはこねて。かれこれ今夜で3日目である。どうしてそんなに時間がかかっているのかって?それは単純に私の自由な時間が真夜中だけであるのと、これを作り上げるにはそれだけの時間と労力が必要不可欠だからだ。あと、あんまり他の人に作っている姿を見られたくない、というのもある。いや、別に見られたからどうという事でも無いんだけど。でもあの人にだけは何とか、バレずに。
「おーい、聞こえてる?」
バレずに終えたいものだ。
大分生地もしっかりしてきた事だし、この分だと明日には焼きに入れるだろう。生地に混ぜ合わせるレーズンやオレンジピールの準備も万端だ。
「なまえってば!!」
「うわっ!?」
突然耳に飛び込んできた声に、思わず飛び上がる。全然気が付かなかった。ていうか普通にバレたよ。いや、でも、あの人に見られるよりはマシ。だいぶマシ。気を取り直して作業を再開する。声の主は何を思ったのか、近くにあった椅子を引っ張ってきて、作業台から少し離れたところに腰を落ち着けた。
「ここ数日毎晩いなくなるからさー、気になってたんだ」
「げっ、気付いてたんだ」
「当然」
彼女はそのトレードマークとも言える眼鏡をクイっと上げながら、得意げに答えた。彼女とは訓練兵時代からの仲であり、最近までベッドも隣だった。彼女が班長に昇格してからは別部屋になってしまったのだけれど。というか部屋が違うのに、どうして夜な夜なベッドから抜け出していたことを彼女が知っているのだろうか。彼女の情報網は本当によく分からない。
「それで、その豪勢なパンは、リヴァイへの贈り物ってやつ?」
「……ハンジは何でもお見通しだねー」
「わはは!なまえの事なら何だって分かるさ!」
「わーお、嬉しいこと言うね」
フルーツと生地を混ぜ合わせ、再びこねこね。その間も彼女との会話は尽きることがない。
「リヴァイって明日誕生日だっけか」
「そ、明日班員で囲んでお祝いしてやろうと思って」
「眉間に皺寄せて喜びそうだね」
「え、それって喜んでるのかな?」
視界の片隅で、ハンジがお湯を沸かし始めた。この人さては寝る気無いな、と思いながら生地をこね続ける。間もなくして厨房にコーヒーの香りが広がった。いやほんと寝る気ないんだな。よりによってコーヒー。まあ私もハンジも明日はお休みだから別に良いんだけど。
「ほんと贅沢の極みみたいなパンだよね、それ。パネットーネ、だっけ?」
「せいかーい。種を北の街から取り寄せたの」
「下衆い話して良い?クッソ高かったでしょ」
「高かった」
「はは、やっぱり!」
フワフワのモチモチになった生地を、丸い大きな型に流し込む。これで一晩寝かせて焼けば、何とか間に合いそうだ。タイミングを見計らったかのように、ハンジがすぐ隣に移動してきて、湯気の立つマグカップを手渡された。中身はコーヒーだった。うん、知ってた見なくても分かっていた。コーヒーはこれからハンジの部屋で行われる“しゃべくりオール”のお供である。溜息交じりに「ありがとう」と言った声には、自分で聞いても分かるぐらいに疲労が滲み出ていた。ハンジはそれを聞いて爆笑していた。
「いやー、それにしても、リヴァイがうらやましいな」
「へ、ハンジも食べたかった?」
「あー勿論それもあるんだけどさ、なまえにこれだけ尽くしてもらえるってさぁ。ずるくね?」
「へ?」
ずるい、とは。
「だってこんな手間暇かかるもんをイチから手作りだよ?寝る間も惜しんでさ。街に出て金を払えば買えるものにも関わらずさ。私がリヴァイだったら、この事実を知った瞬間にハートを撃ち抜かれて死ぬね」
「いやそこは生きて」
「ついに告っちゃう?」
「ううん、言わない」
「えー!?なんで!!」
しっ!と指を立てると彼女はぐっと息を詰まらせた。忘れてるかもしれないけど今夜中だからね?と小声で言うと、ハンジはコクコクと息を止めたまま頷いた。そして大きくため息をついてから、マグカップを片手に立ち上がった。かなり色々言いたげな表情をしていた。ちょうど片付けを終えた私も一緒に立ち上がる。
「確かにここじゃあ周りが気になってまともに話せないよね。続きは私の部屋でじっくり聞こうじゃないか」
それから宣言通り、私はハンジの部屋で赤裸々にリヴァイへの想いを吐かされ、そして彼に告白するように説得された。それこそ空が白んでくるまで。
でもハンジ、私はリヴァイの事が好きだけど、恋人になりたいとは思わないんだ。というより、思わないようにしてる。ハンジは、リヴァイと私は両想いだと思うと言ってくれた。だから難しいことは考えずに、素直に気持ちを伝えてしまえばいいし、リヴァイはきっとその気持ちに応えてくれる、とも。
リヴァイは見た目によらず義理堅いヤツだ。そして何だかんだ面倒見が良くて、仲間想いなところもある。だから、例えば私が、この想いを彼に打ち明けるような事があったとして、それを嘲笑ったり、無下にしたりすることは無いと思う。それなりに真面目に考えて、返事をしてくれるとは思う。
でも、どうにも私は、彼の“良い返事”というのが想像できないのだ。彼の中の“特別”になりたいとは思う。でも“特別”になれるのは、私じゃない他の誰かなんだと思う。それになんたって彼は“人類の希望”であり、“英雄”である。私みたいな平凡な兵士じゃ、まるで釣り合わないじゃないか。彼にはもっと美しくて、強くて、聡明な女性が相応しい。だから、私じゃないんだよ。だからこのパネットーネは、あくまで大切な仲間の一人としてプレゼントするつもりだ。決して言葉にできない気持ちは全部生地に練り込んでしまった。何も知らずに全て飲み込んでほしい。それで「美味い」という一言でももらえたら、私の心はきっと満たされる筈だから。
***
12月25日の夜は雪がしんしんと降っていた。いつも以上に静かな食堂(夕食の時間はとうに過ぎたから誰もいない)に、リヴァイと私の所属する班員数名達だけが、一つのテーブルを囲んで座っていた。会議という名目で集まっているので、皆努めて真面目腐った顔をしている。真実を知らされていないリヴァイは勿論真面目な……真面目なのかあれは?眉間に皺を寄せて腕を組んで座っている。あぁ、いつも通りですね。怒ってはいないけど、喜んでもいない。あれがフラット。今はこんなだけど、昔……と言っても1年くらい前の話だけど、彼はもう少し柔らかい表情を見せることくらいあったはずだ。あんな常にピリピリはしてなかった。きっと彼が大事に想っていた仲間が亡くなったから。それも二人いっぺんに。助けられなかった事に負い目を感じているのかもしれない。でもそれは、調査兵団の兵士なら、誰しもが経験することだ。悲しいけれど。私たちは彼らの死を抱き締めて、前に進んでいくしかないのだ。
「なまえは?」
突然リヴァイの声が耳に入ってきてびくついた。厨房の中でガサゴソしている姿が見えなかったらしく、会議に遅刻したと思われたらしい。恥ずかしい。いや私遅刻してないけど。
「なまえはあっちで紅茶淹れてる」
「は?」
「この前街で良い茶葉が手に入ったんだ。今日は一段と冷える日だからな。特別に皆にも分けてやる」
班長が頑張って時間を稼いでいる。しかしリヴァイの返事には疑心が滲み出ている。班長の今の台詞は一応真実なんだけどな。かわいそうに、普通に疑われているよ。皆班長のフォロー頑張ってくれ。今日のサプライズが成功したら、ちょっとはリヴァイと皆の距離も縮まるかもしれない。あと、こんな時くらい、穏やかな時を過ごしてほしいと、切に思う。
「そのわりには随分と時間がかかってるようだが」
「そうか?いつもこんなもんだぞ」
「そうそう」
「そうそう」
アンタら嘘下手くそかよ!例のパネットーネを大急ぎかつ慎重に切り出してお皿に乗せて。よし、後は班長が買ってきてくれた紅茶を淹れたら………。
「なまえ、テメェ返事もしねぇで、倒れてんのかと思っ………」
「あ、」
「あ?」
茶葉の入った缶を持って顔を上げたら、目の前に居てはならない人がいた。
「oh……」
リヴァイは私の顔を見て、パチパチと瞬きした。そしてその視線は私の手元へ、そしてトレーの上のパネットーネ、まだ空のティーカップへ。それから再び私に目を向けた。真顔である。サプライズ失敗ですお疲れ様です!……うわ。何この空気。
「……缶が開かねぇのか。相変わらず非力なヤツだ。貸せ」
え、そっち?という声を上げる間もなく、手元の缶が取り上げられた。もしかしなくても勘違いされたのだろうか、上手いこと。私の(伝えられない)愛を込めたパネットーネには無反応だった訳だけれども。えっ悲しいんだけれども。
「確かにこりゃ、上物だな」
缶の蓋は彼の手によって難なく開けられた。そして流れるような動作で紅茶を淹れ始めた。わー紅茶好きなのは知ってたけど、やっぱり淹れるのも上手……じゃなくて、何ぼーっと眺めてたんだ、私は。
「ごめんまさかの主役にやらせてしまった……」
「主役?何の話だ」
「え?」
「あ?」
固まる私。首を傾げるリヴァイ。彼の背後に位置する柱の影から、我らが班長が全力でゴメンねポーズをしていた。そうか、全力で誤魔化しつつ引き留めようとしたけど無理でしたごめん!って意味ですね。そして未だ状況を把握していない彼への対応を丸投げされたと。それで私はどうすれば良いのか!?冷や汗がダラダラ流れる。
「えーっと、」
あーもう、なるようになれ!
「あのね、リヴァイ!」
勢いに任せてリヴァイの両手をぎゅっと握った。途端に自分の顔が、いやそれどころか身体中が真っ赤になったような気がする。けど、ここで引けばもう言えない。女は度胸よ!
「お誕生日おめでとう!!」
リヴァイはポカンとしていた。あんな表情の彼は見たことがなかった。どうしてあんな顔をしていたのかなんて、当時の私には考える余裕もなかったけど、あんな顔が見れたというだけで、私にとっては十分だった。結局あの後は班員皆でリヴァイを取り囲んでワイワイ盛り上がった。リヴァイはハンジの言った通り、眉間に皺を寄せていたけど、怒っている風ではなかった。喜んでいるのかどうかはよく分からなかったけど、お皿に盛り付けたパネットーネは綺麗に平らげてくれた。素直に嬉しいと思った。
告白は、結局しなかった。
***
「あぁ、もうそんな時期か」
「え?何が?」
霜がたくさん付いた窓を眺めながら廊下を歩いていると、書類を脇に抱えたリヴァイにバッタリ出くわした。何やら急いでいる様子だったので、会釈だけして去ろうとしたのだが、すれ違い様にそんなことを呟かれたので、思わず振り返って聞き返した。リヴァイもまた立ち止まってこちらを振り返っていた。彼の爪先がこちらを向いて、それからコツコツと小さな靴音と共に、私の目の前、ではなくて、すれ違った瞬間のように、隣で立ち止まった。え、何?
「また夜な夜な、あのデカいパンを作ってやがるんだろう」
「え……なんで自分の誕生日の事はいつも忘れてるのにパネットーネのことは覚えてんの……?」
初めてそれをプレゼントした時だって忘れてた癖に!と付け足すと、リヴァイはフッと笑った。そう、リヴァイはあの頃から、少しずつだけど、リラックスした表情を見せてくれるようになった。兵士長になって、背負うものがたくさん増えた筈の彼だけど、今ではこうして、たまにだけど、笑ってくれるようになった。
しかし、不意討ちでやってくるリヴァイのそういう顔に、私は全然慣れる気配がない。勿論見れて嬉しい。しかし恥ずかしい気持ちの方が10倍ぐらい勝っている。居たたまれなくなって目を背けた。またリヴァイの笑う声がした。
不意に頭に何か触れたような気がして固まる。そして彼の指先が私の髪の間をするりと通り抜けたのだと分かって、一瞬で私の頭は沸騰した。
「えっなっ、えっ」
「甘い匂いがする、お前が言うパネットーネとやらと同じ」
髪に触れてきた指先が、続け様に私の目の下をつーっとなぞる。私は震えた。もう爆発しそう。
「目の下の隈も……、俺が気付かないとでも思ったか?なまえよ」
はい爆発しました終了ですさようなら!とはできなかった。腰が抜けてその場にへたりこんだ。ちょっと楽しそうな顔をしたリヴァイによって食堂に連行された。そして今年も例によって、食堂の一角をお借りして、彼の誕生日をお祝いした。彼を慕って付いてきてくれる部下達や、すっかり仲良くなったハンジやミケ、そしてまさかのエルヴィン団長まで。
「兵長!お誕生日おめでとうございます!!」
「おいエレン抜け駆けすんな!皆でせーので言おうってついさっき決めたばっガフゥッ!!」
「オルオあんたは黙ってて。おめでとうございます兵長!さ、こちらの席に」
初めてリヴァイの誕生日をお祝いした時の事を思い出す。あの時はまだ皆、彼との心の距離を感じていて、それでも彼が抱え込んでいる苦しみを少しでも軽くしてあげたいと必死になっていた。
「兵長、これ、班の皆で選んだものです。よろしければ使ってください」
「あぁ……すまないな。早速使わせてもらう」
「私とミケ、ハンジからはこれだ。気に入ってもらえると嬉しい」
「……ハンジのセンスは信用ならねぇが、エルヴィン、ミケ。お前らの薦めなら間違いないだろう。ありがたく受け取っておく」
「ちょっとリヴァイ?今のはどういう意味だい?」
「クソメガネ、テメェはいつも訳の分からねぇ試作品を押し付けてくるじゃねぇか」
「や、やだな〜今回は真面目……、いや、今回も!真面目に選んださ!」
あの時一緒にお祝いしたメンバーは、もうここにはいない。けれど、あの時の事があったから、こんな風に毎年、命を削るようにして生きてるリヴァイを、
「それにしても、こんなに美味しいお菓子を毎年作ってもらえるなんて、リヴァイは幸せ者だな〜!ってなまえ!?なんで泣いてるんだい!?」
「なまえ分隊長……もしかして、兵長にテーブルの下で蹴られたんですか!?」
「おいエレン、テメェ何をどう考えたらそうなる。なまえ、具合でも悪いのか」
「いや、えっと、これはその、違くて」
リヴァイを、思い切り労って、甘やかして、心を軽くしてあげられることを、幸せに思う。
ボロボロと涙が溢れてくる。リヴァイが珍しくオロオロしながら、テーブルの下で私の手を握ってくる。温かい手だ。皆がニヤニヤしながら(因みにエレンはペトラに耳打ちされた瞬間にニヤけ始めた)、私とリヴァイを交互に見ている。リヴァイだけが、私が泣いている理由を分かっていない様だ。あの時のサプライズと同じだね。また、愛しさが溢れた。
「生まれてきてくれて、ありがとう。リヴァイ」
おめでとう、おめでとうございます、という祝福の声、誰かの指笛、そして数人分の拍手が飛び交う中、リヴァイは少しの間だけ目を瞑って、それから握っていた私の手を軽く引いた。
「少し、出てくる。存分に楽しめ」
「はぁい、ごゆっくり!」
何故か一層賑かになった食堂を出て、リヴァイはその扉をそっと閉めた。途端に訪れた静寂。未だ離される事のない手が熱く感じる。手汗がヤバイかもしれない。そんなことを考えている間に、肩を軽く押されて壁際に追い込まれた。上から覆い被さるようにしてリヴァイが顔を近付けてきた。キスされる、と直感が告げている。空いた手でリヴァイの肩をそっと押してみる。勿論びくともしない。押し寄せる羞恥心に、ぎゅっと目を閉じて“その時”を待った。
ちゅ。ちゅ。
柔らかな感覚は唇ではなくて、涙の溜まった目尻に降ってきた。恐る恐る目を開くと、眉間に皺を寄せたリヴァイが私を見下ろしていた。グレーがかった瞳は何故か熱を持っているように見えて、軽く目眩がした。
「嫌ならもっと必死に抵抗してみせろ」
それができねぇなら、次はここを貰うぞ。静かな声と共に、くいっと顎を上に向けられて、そのまま親指が私の唇を滑った。抵抗なんて、できるわけがない。もう一度ぎゅっと目を瞑ると。直ぐに私の唇は、彼のそれによって塞がれた。
***
「なぁ、なまえよ。情けねぇ姿だな、この程度で根を上げるとは」
「だって、リヴァイが、全然息させてくれないから、」
「は、まともにキスもできねぇのか」
正確には私の羞恥心が再び爆発して腰が抜けたのだけれど。どっちにしても恥ずかしいので口に出せる訳も無く、顔を背けた。今の私はリヴァイの支えが無いと立っている事もできない。私のHPはもう殆んど残っていないのだ。私の死因はこれになるかもしれない。あぁもはや存在が恥ずかしい。今更背中に回ったリヴァイの腕から逃げ出す元気もない。今日のリヴァイは一体どうしたんだ。この距離感は最早仲間内のそれで済まされるものではないような気がするんだけど、もしかして夢?夢なの?
「ところで、」
「うん……」
「何で毎年あの菓子なんだ?何か意味があるのか?」
「うん……?」
「………無ぇのか」
「あっありますよちゃんと!」
思わず顔を上げると、至近距離で目が合った。光の速さで顔を背けた。
「じゃあ言ってみろ」
「えっと、」
パネットーネを毎年リヴァイのために焼き続ける理由。ドクドクと心臓が跳ねまくるのを誤魔化すように、そっと深呼吸をしてから、意を決して口を開いた。
「古い書物を読んでいたら偶然見つけたんだけどね、酵母を手に入れた街に古くからある伝統菓子で、今でもこの時期になると好んで食べられているんだって」
「……それで?」
「その街では今日の事を“太陽がよみがえる日”と呼ばれているんだって」
リヴァイは私たちにとって太陽みたいな存在だから。強くて、優しくて、求心力があって。貴方と共に戦えば、どんな苦労も困難も乗り越えていける気がするの。そう思わせてくれるの。だから、
「貴方にぴったりだと思っ――」
私の言葉を遮るように、唇に噛みつかれた。今度こそ酸素、全部持っていかれてしまう。
「は……っ、何ってぇ事言いやがる……テメェ」
「リ、ヴァイこそ……何なの……急に……」
もう全然身体に力が入らない。完全に脱力してリヴァイの肩に凭れかかった。背中に回っていた腕に力が籠ったように感じた。
「お前は時折驚く程甘ったるい言葉を吐きやがる癖に、肝心な事は欠片も言わねぇ……」
「………へ」
気だるそうなリヴァイの声が、耳元でしっとりと響く。何か、予感めいたような口振りに、まさかと思う。いや、そんな、そんな訳。
「いつ言ってくるのかと構えていたんだが……。もう待つのはやめだ。俺はそんなに気長ではないんでな、俺の好きにさせてもらう。……決定は覆らない。お前は俺の決定に従うだけだ」
肩に押し付けていた顔を優しく持ち上げられる。まるで大切なものでも愛でるような目付き。横暴な言葉使いとは裏腹な仕草。何度か髪をすいた彼の手は、私の後頭部に回り込んだ。導かれるままに、おでことおでこがくっついた。
「なまえ、俺のものになれ」
5回目のパネットーネを飲み込んでもらった日。私の送り続けた無言の愛が、何倍にもなって跳ね返ってきた。
Happy birthday levi.
May your birthday be filled with love.
end.
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