Happy Birthday Levi 25/12/2019
23 お留守番大作戦
今日はクリスマスイブだ
外はもう既に暗くなっているが
街はいつもより明るく
軽快な音楽が流れ、人々の笑い声に包まれている
「はぁ〜〜〜。」
執務室に誰もいないのを良いことに 私は盛大なため息をついた
今日何度目だろうか
そんなことを考えるのも馬鹿馬鹿しくなるほど
気を抜くと出てしまっている
そして、自分が吐き出したその音を聞いて
更に気が滅入るという 悪循環に陥っていた
友人たちに食事に誘われたが
皆と騒ぐ気にはなれず、仕事を理由に断った
「こんな日に仕事だなんて。」と気の毒がられたが
本当は仕事なんて殆ど無かった
リヴァイ兵長はその日に出来ることはきっちりやるし
仕事を溜め込むことなんてしない
ましてや、今日はエルヴィン団長もリヴァイ兵長もいないのだ
補佐官である私の仕事などたかが知れている
それでもこんな時間までここに残っているのは
少しでも彼の存在を感じられるこの部屋に居たかったからだ
最後の書類をトントンと整えるとリヴァイ兵長の机に置いた
主のいない椅子の背もたれをそっとなぞる
今頃リヴァイ兵長は何をしているのだろうか
出資者のひとりである貴族主催の
クリスマスパーティーとやらはもう始まっている頃だろう
美しく着飾ったパートナーと腕を組み
優しい笑みを彼女に向けているのだろうか
そう思うと、チクリと胸が痛んだ
最近よく考えてしまうのだ
「リヴァイ兵長と私の関係」
肌を重ねたことは何度もあるけれど
お酒の勢いで始まったそれは
愛だの恋だの甘さを含んだものではなかった
でも少しくらいは 心を許してもらっていると思う
補佐官になってリヴァイ兵長の雰囲気はより柔らかくなった
ふいに向けられる微笑みに 時々勘違いしそうになる
特別になりたいだなんて、そんなこと望むなんておこがましい
わかっている、分かっているんだ
ただ今回のように私ではない誰かが彼に付き添っていると思うと
「彼の隣に相応しいのはお前じゃない。」と
現実を突き付けられているようで、少し つらい
恋人たちにはクリスマスは待ち遠しいイベントだろうが
当然私たちに約束はない
少し期待して明日休みにしたけれど
兵長も休みだとついさっき知った
誰かと約束でもあるのだろうか
こんなことなら職務中にプレゼントを渡しておくべきだった
街で偶然見かけた一目惚れしたブレスレット
黒い革が二重巻きになっており、シルバーの留め具のシンプルなデザインだ
予想以上に値が張ったけど 兵長に安物は贈れない
店主に頼み込んで取り置きしてもらい給金を貯めてやっと手に入れたものだ
身に着ける装飾具を選んでしまったのは
それを見て私を思い出してほしい
私の代わりに傍に置いてほしい
そんな隠し切れない独占欲もあったのだけれど
邪な感情に気づかれたら受け取ってもらえなそうだ
「いつもお世話になっているから。」
そう理由をつけて用意したプレゼントだった
ただでさえ渡すのに勇気がいるのに
今日の兵長はすこぶる機嫌が悪かった
そんな中渡したら
要らねぇ。の一言で一蹴されそうで怖くて渡せなかった
明日執務室に出向いて渡そうと思っていたのに
兵長まで休みだなんて思わなかった
流石に私室まで押し掛ける気にはなれない
明日の休みも用意したプレゼントも無駄になりそうだ
またため息が零れそうになったその時
コンコンッ、と聞こえたノック音と同時にドアが開き
「あ、いたいた〜!」とハンジさんが顔を覗かせた
その明るい声に、ホッとしながらどうしたのだろうと思っていると
「はい、クリスマスプレゼント。」と言って
にこにこ笑ってラッピングされた箱を手渡された
思いがけないプレゼントに驚き、慌ててしまった
「えっ?!有難うございます!す、すいません、私用意してなくて…」
申し訳なさそうにしている私にハンジさんは、手をひらひら振って
「いいの、いいの!そんなこと気にしないで!
私が好きでやってることだし。それにこれはなまえにっていうより
リヴァイへのプレゼントと言った方がいいかな〜。」
最後はニヤニヤと笑みを浮かべ、含みを持たせた言い方をした
不思議に思って問いかけようとしたら
「明日は特別な日だしねぇー。」という言葉に
ハンジさんもクリスマスを楽しみにしているのかと意外に思った
「…まぁ、明日はクリスマスですからねぇ。」と答えた私に
ハンジさんは眉を寄せて哀れむような顔をした
あれ…?なにか噛み合ってない?と微妙な空気がしばし流れた後
「…もしかして、明日リヴァイの誕生日だって知らないの?」
っていう、ハンジさんの言葉に私は絶叫した
待って、待って! そんなの知らない!!
そういえば、2、3日前廊下ですれ違ったエルヴィン団長の言葉を思い出した
私に「リヴァイへのプレゼントは用意したのか?」と聞いてきたのだ
もう既に買ってあったので、「もちろんです。」と答えると
彼は至極満足そうに「そうか。」と言って立ち去ったのだ
団長の様子が少し引っかかりはしたものの
あの時は大して気にせず、今まですっかり忘れていた
あの言葉は「クリスマスプレゼント」ではなく
「誕生日プレゼント」だったのだ
きちんと言ってくれないと分からないですよ、団長!と
少し八つ当たり気味に思い返すが どうにもならない
オロオロしている私を横目に
「クリスマスプレゼントがあるんだから いいんじゃない?」
なんてハンジさんは言うのだけど
「ダメですよ!」
私は半ば叫んでしまった
だって、そんなの良いわけがない
最初から知っていてプレゼントを1つにするのと、
後から知って1つにまとめてしまうのでは意味合いが全然違う
誕生日プレゼントをついでにあげるなんて
そんなこと出来るはずがない
とはいえ、もうこの時間では
プレゼントを買えるような店はどこも閉まっているだろう
例え開いていても ブレスレットに使ってしまって
新しいプレゼントを買うお金なんかもう残ってはいない
すると、ハンジさんが眼鏡を怪しく光らせながら
「じゃぁ、早速これを使うしかないね。」と
先ほど渡された箱を指さした
────
我ながらなんていいタイミングだ
今日はリヴァイが出掛けているじゃないか!
「お留守番大作戦といこうか!
やっぱりプレゼントはサプライズじゃないとねぇー!」
こっそり彼の部屋で待つなまえ
あぁ、いいね。いいね、滾るね!!
管理室から借りてきた鍵で 難なくリヴァイの部屋のドアは開いた
幹部である私と リヴァイの補佐官が一緒なら
特に問いただされることもなく
適当な理由で、すんなりと鍵を渡してくれた
「ま、待ってください!勝手にリヴァイ兵長の部屋に入ったら怒られます!
それに、私には無理です!兵長が喜ぶとは思えません!!」
と、ここまで来てもまだ必死になって止めようとするけれど
「なに言ってんの。なまえなら大丈夫だよ。」
当たり前のように言ったら、そんなはずはないだろうと困惑した様子だ
全くなんで、この子は分からないんだろう
傍から見れば、リヴァイの溺愛ぶりはよく分かるのに
補佐官に引き抜いたのだって、リヴァイ本人だし
やたらなまえの肩とか頭とか触ってるし
本当は自分で買い求めたのに
貰いものだって言って、菓子をよくあげているのも知っている
その類いの店の常連になっているくらい足繁く通っている
幹部連中なら 誰もが知るところだ
まだ納得のいかないなまえを宥めすかし、リヴァイの部屋に無理やり押し込んだ
────
「じゃぁ、頑張ってねぇ〜。」と
楽しそうに、ハンジさんは行ってしまった
スイッチが入ってしまったハンジさんを止めるなんて土台無理な話だ
取り残された私は、勝手に入った部屋で寛げるわけもなく
キャンドルをひとつだけ灯し ソファに縮こまって座っていた
帰ってきたら どんな顔をすればいいのだろう
恋人でもないのに
勝手に部屋に入って待っている女って 重くないだろうか
リヴァイ兵長の反応が怖すぎる…
か、帰りたい…
鍵はさっきハンジさんが返しに行ってしまったから
自分の部屋に 戻ろうにも戻れないのだけれど
頭を抱えて待っていたけれど 一向にリヴァイ兵長が帰ってくる気配はない
もうとっくに日付は替わっている
ハンジさんは「あのリヴァイが長居するわけがない」と言っていたけれど
パーティーは夜通し行われると聞いた
ゲストの為の部屋も用意されているらしいから
数時間かけて無理に帰ってこないんじゃないだろうか
もしかしたら 誰かと過ごしているのかもしれない
きっと凄く綺麗で大人な女性だ
箱に入ったままだったハンジさんからのプレゼント
それは デザインは可愛らしいもののセクシーな下着だった
きっと私みたいに尻込みなんかせず
当然のようにこの下着を着こなしてしまうんだろう
私が描き出した架空の人物に嫉妬し
一度くらい私だって挑戦してみるべきだ、と対抗意識が芽生えた
どうせ誰も見ていない
さっさと服を脱ぎ捨てて それらを身に着けてみる
淡いピンクに小花が刺繍されているそれは 可愛らしいものだったけど
所謂Tバックというもので申し訳程度にフリルがあるだけで
何ともお尻が落ち着かない
兵長の姿見を拝借して 自分の姿を眺めてみたが見ないほうが良かった
余りに似合わな過ぎて、情けないのを通り越して笑えてくる
項垂れていると、突然
ガチャリと、ドアが開いた
振り返ると、そこには帰ってこないと思っていたリヴァイ兵長が立っていた
慌てて脱いだシャツで体を隠し
「な、なんで…!」と思わず口にしたけれど
「…俺の部屋なんだが。」と返されれば何も言えない
「いえ、違くて…!あの、勝手に入ってすいませんっ。
今日は、リヴァイ兵長のお誕生日だってハンジさんに聞いて
あの、リヴァイ兵長が喜ぶからって、あ、あの…。」
何から説明していいのか分からなくてしどろもどろになる私に
ゆっくりと近づいてくる兵長の反応が恐ろしい
自分が必死に怒られまいと言い訳する子供のようだと思った
「なんて格好してやがる。」と静かな声で改めて指摘され
かぁっと顔が赤くなった
こんな格好を見られて 惨めだ
もう、ほんと泣いてしまいたい
────
俯いてしまったなまえの顔を頬を包み込んで上げさせた
資金調達の為には少々我慢も必要なのは分かるが
今日は出掛ける前から胸糞悪かった
パーティーとやらは
結局は豚どもの下らない見栄の張り合いで反吐が出る
エルヴィンは少しでも楽しめるように
なまえをパートナーにと提案してきたが
こいつを豚どもの目に晒すなんて 冗談じゃない
そもそもなまえは自分の魅力を分かっていないんだ
出席者の体を嘗め回すように見て
にやける顔を見かけるたびに
あいつを連れてこなくて良かったとつくづく思った
帰ってきて、なまえの顔を見たかったがもうこんな時間だ
部屋に忍び込むわけにもいかねぇし
大人しく自分の部屋に戻ってきたら 思いがけずなまえがいた
よくは分からなかったが、要するにハンジに丸め込まれたらしい
そしてその格好は俺の為だと言うじゃねぇか
本人は隠しているつもりのようだが
なまえの後ろにある姿見には肉付きの良い尻が はっきりと映し出されている
くらりと、眩暈がした
エロい格好しやがって
今すぐ押し倒したい衝動をなんとか堪えた
顔を見て疲れも吹っ飛んだが、その格好をみて違う感情が沸き上がる
「す、すぐに脱ぎますから、あっち向いててください。」なんて言うなまえを制し
「おい、それは俺の為に着たんだろう?
だったら、脱がすのは俺の役目じゃねぇか。」
なまえが握っていたシャツを放り投げ じっくりとその姿を堪能する
恥ずかしがって体をくねらせるその仕草も堪らない
なまえを愛しいと思う 守ってやりたいとも思う
が、同時に 羞恥に頬を染め 潤んだ瞳を見ていると
追いつめて壊してやりたくもなる
この感情をなんていうのか 俺は知らない
言葉にすると 歯止めが利かなくなりそうで
甘い言葉を今日も 飲み込んだ
さて、コートのポケットに入ったままの箱をどうやって渡そうか
「リヴァイ兵長 お誕生日おめでとうございます。」
潤んだ瞳で言うなまえに
取り合えず
ありったけの愛を込めて 額にキスをした
エルヴィンに無理やり取らされた休みは
有効に活用できそうだ
────
プレゼントは結局
「ほら。」と朝、目を覚ましたなまえに素っ気なく渡してしまった
それでもあいつは嬉しそうに受け取った
いつもの菓子だと思っていたのだろうが
箱を開けたなまえは驚いて固まっていた
中に入っているのは 華奢なチェーンのブレスレットだ
小さな花のチャームが付いており、中心部分には小さな宝石が埋め込まれている
「あ、あの、これ!こんな高価なもの受け取れません!!」
慌てて、手に取ることもせず箱ごと返してきやがった
面倒くせぇから 腕を引っ張り手首に着けてやったら
自分の手元を見つめ 頬を染めて恥ずかしそうに笑った
「私も用意したんです。」と今度はなまえから小さな箱を手渡された
「昨日もう貰ったはずだがな。」とからかうように言うと
「あれは!…誕生日プレゼントで、これはクリスマスプレゼントです。
来年はちゃんとしたものを用意します!」と、意気込んだなまえに
「来年もあれで良い」と言うと
顔を真っ赤にして口をパクパクさせていた
その様子を可笑しく思いながらも
なまえはその意味を正しく理解しているのだろうか
「来年も傍にいてほしい」という俺の願いを─
────
リヴァイ兵長は例のプレゼントを取り出すと
満足そうに眺めていた
心なしか嬉しそうに見えるから
気に入ってもらえただろうか
そう思っていたら、ブレスレットを返された
「え?」と思っていると今度は、ずいっと腕を出してきた
…つまり手首につけろってことらしい
つけあいっこするなんて なんだか恋人同士みたいだ
「ブレスレット」を選んだ理由が
私と同じ感情が少しでもあればいいな、なんて思ってしまう
キラリと輝くお互いの手元
はにかみながら「なんだかお揃いみたいですね」と
思わず口走ってしまい、ハッとする
流石に調子に乗りすぎただろうか
こっそりリヴァイ兵長を盗み見ると
余りにも 穏やかに微笑むものだから
少しくらい自惚れてもいいだろうか
────
「はぁー、今日もいい天気だ!」
空を見上げながら伸びをした
あの2人は昨日の休みを堪能したんだろう
そう、思っていると
ボスッ。と足にいきなり衝撃を感じよろけた
「おい、クソメガネ。てめぇ勝手に人の部屋に入るんじゃねぇよ。」と
威圧的な声が後ろからした
「入ってないよ。なまえを送り届けただけだよ。」
粋なプレゼントだったでしょ?と振り向くと
「はっ。」と鼻で笑われたが、お気に召したのは
痛くもない先程の蹴りが物語っている
「そう言えば、朝一でなまえが報告に来てくれたよ。」
「ハンジさーん!!昨日は有難うございました。
見てください、これ!!兵長に頂いたんです!!」
と、溢れんばかりの笑顔だった
「やっぱりブレスレットにしたんだ。」と言った私に
「ん?」と首を傾げたが、嬉しさにそれどころではないようだ
実は少し前に執務室にリヴァイが突然やって来た
「おい、クソメガネ。女が貰って喜ぶもんて何だ?」
てめえも一応女なんだから俺よりは分かるだろうと
何やら失礼なことを言ってきた友人をちらりと見やる
ソファに踏ん反り返り、とても人に物を尋ねる態度ではないが
それも彼の個性だ 今更いちいち気にもならない
「なまえにあげるプレゼント?」と問うと
「…誰もそんなこと言ってねぇ。」と視線を逸らした
…分かり易っ!
思わず緩みそうになる口元を隠し
「アクセサリーなんていいんじゃないの?指輪とか。」
「指輪はあからさま過ぎるだろうが。」
何を今更言ってんだ、この男は
「じゃぁ、ネックレスは?」
「シャツの下にしたら他の野郎に見えねぇだろうが。」
…マーキングかよ
「…じゃぁ、ブレスレットは?」
「ほう、ブレスレットか。悪くねぇ。」
というやり取りがあったのだ
「ハンジさん、ハンジさん!!ここに宝石があるんですけど
これ私の誕生石なんですよ!すっごい偶然ですよね。
流石リヴァイ兵長!って感じですよねー!!」
リヴァイの小憎らしい演出も なまえにかかれば偶然で片付けられてしまうらしい
ちょっと気の毒な気もするが
隣の男に「凄く嬉しそうだった。」と伝えると
満足そうにしているので大した問題じゃないらしい
ふと見ると、リヴァイの手首にも見慣れぬそれがあった
あぁ、なまえからのプレゼントか。とは思ったが
面倒くさくなりそうだから 聞いてやらなかった
「ねぇー。今回私、良い働きしたと思うんだよねぇ。」
私にも何かないのかなー。と顔を覗き込むと
バシッと紙袋を顔に押し付けられた
中にはリヴァイお気に入りの紅茶の茶葉が入っていた
本当にあると思っていなかったので驚いた
「今回は世話になったからな」とリヴァイは言うけれど
プレゼントのアドバイスなのか 昨日のことなのかは謎だ
今日は上質な香りに包まれて
2人の幸せのお裾分けを頂くとしよう
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