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丸く縁取られた空が茜色に染まり始めているのが見えた。
もう夜はすぐそこまで迫っているらしく、遠くでカラスの鳴き声がしてはっとする。
「奴良組のカラスじゃねぇよ」
「鴆くん分かるの?」
「鳥妖怪だからな、ちなみにさっきの奴らは“飯ー”って言ってたぜ」
「あははっ、そうなんだ」
リクオが寂しがらないようにか、ワザとおどけて話す鴆の優しさ。
いつ助けが来るか分からない状況下ではそれがとても有り難かった。
「けど本家じゃ今頃お前が帰らねーっつって大騒ぎしてるかもな」
「鴆くんこそきっと番頭さんが顔真っ青にしてると思うよ」
「あいつ過保護だからなぁ…この足見た瞬間卒倒するかもな」
「…ごめんね、鴆くん」
「だからリクオのせいじゃねぇって。ここに落ちた時に着地しそこねたオレが悪い」
「だって…」
窮屈な空間で庇うように伸ばされた右足首はすでに青く、ぷっくりと腫れていた。
鴆はリクオの視線に気づくと大丈夫だからとまた笑ってみせる。
本当はすごく痛くて冷や汗が出るほどだというのに。
「リクオが取ってくれた薬草がクッションになってくれたんだぜ?これがなかったら捻挫どころじゃなかった」
「でもこの穴に落ちたのはボクのせいで…勝手に走り出したから」
涙ぐんできた視界の端で鴆が動いて、リクオの頭をぽんぽんと撫でた。
顔を上げるとぼやけた先で鴆がやれやれと苦笑している。
「んなこと言い出したらオレがお前を薬草摘みに誘った事まで後悔しなきゃなんねぇだろ」
「そんな……っ」
「な、リクオ、今日1日楽しくなかったか?」
「ううん、楽しかったしすごく綺麗だった」
「だろ」
澄んだ水が湧く池も、木漏れ日の射す林も、黄色い花が数多咲く野原も。
全てが見たことないほど綺麗で感動したし、何より「オレとリクオの秘密だ」と笑って案内してくれた鴆がすごく愛しかった。
だから少しはしゃいでいたのかもしれない。
『鴆くんあれもそうでしょ?』
『あ…リクオ待て!』
先にある薬草にばかり目がいってその間にある大穴に気づかなかった。
自分を庇った鴆まで道ずれにして、しかも怪我までさせてしまって。
リクオの浮かれた心はしなしなとしぼんでしまっていた。
「リクオが気に病むこたぁねぇよ。ったく“たら”“れば”はお前の悪いクセだな」
「うん。……でもボクにもっと力があれば鴆くんを抱えて……。あっ」
「“れば”」
はっとして口を押さえてしばし鴆と見つめ合う。
そしてどちらかともなく吹き出すと、狭い穴の中で笑い声が反響した。
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