「あ、母さんならいいかもな」

「なになに?」




ちょいちょい。




何も言わずに手招きするリクオ。

珍しく頼ってきたらしい息子に若菜は一際瞳を輝かせた。

若菜にとって昼のリクオと同じくらいに夜のリクオも可愛い。
けれどいつもは照れくさいのかなかなか話しかけてこない。
だからこうして呼ばれたのが嬉しくてすぐさまリクオの懐をひょいと覗き込んだ。

するとその手の中で正座した鴆が挨拶した。




「こ、今晩和」

「あら、可愛い小人さんね」

「違うよ母さん、鴆だ」

「え?まあ…これが鴆くん?どうしたの」

「ちょっとした手違いというか…薬を間違えて」

「あらあら〜医者の不養生ね」

「え…あぁ、まぁそんなとこっつうか」




――間違いなく親子だな

ちらりと上を見上げればほらやっぱ間違ってねぇだろ?とリクオがドヤ顔で鴆を見ていた。

いや、医者の不養生はちょっと違うから。




「でも本当に可愛いわねぇ。そうだわ皆にも見せて行きなさいよ」

「あー…あいつらには明日見せるからいいよ」

「オレは見せもんじゃねぇぞ!?」

「そう?残念ね…こんなに可愛らしいのに」


「鴆の事は母さんにしか言ってねぇから組員にはまだ言わないでおいてくれ」

「分かったわ。今日は飲まないの?」

「コイツの世話しなきゃいけないから、おやすみ」




背を向けた息子に若菜がおやすみと声をかけた。

後から聞こえた、鴆くん潰しちゃダメよーという声はもっともなので胸にとめておく事にする。

大広間の喧騒が遠ざかってきた頃、再度懐に入れていた鴆がひょこっと顔を出した。




「オイリクオ、マジで組員に見せんのかよ」

「見せるっつうかオレが歩いてりゃ自然とお前も視界に入るだろ。ほら、前玩具あったじゃねえか?どこでも一緒★みたいなの」

「知らんわ!!」

「ダメだなぁ鴆。流行りは押さえとかねぇと時代に置いてかれんぞ」

「別についてこうなんて思ってねぇっつうの!!」

「なに。鴆はオレと常に一緒なのながヤなわけ」

「ばっ……んなわけねぇだろ」

「じゃあいいだろ」




素直な否定の声。




まぁ、否定してくれるのは分かっていたけどやっぱり嬉しい。

何よりもリクオ。誰よりもリクオ。
常にオレだけを見続けてきた鴆が自分と一緒に居て嫌なわけがないという自負がある。
さらに言えばこの愛鳥(今は猫)と紡いできた月日が裏切るはずはないという自信もある。

けれどそんなもろもろの事をひっくるめて、結局自分も彼が好きなのだと自覚するのだ。




「…何笑ってやがる」

「何も。ただ嬉しかっただけさ」

「………。」

「ちょっ、鴆危ねえって」




リクオが表情を緩ませていると何を思ったのか鴆が着物をよじ登り始めた。

尾でバランスをとっているが落ちたら大変なので軽く手を添えてやる。

リクオの襟を掴みその肩にぽふっと座りふんっと息をはいた。




「ここなら良く見えるぜ」

「なんだ景色が見たかったのかよ」

「違えよ、下からじゃお前の顔が見えにくい」

「……そっか」




冷たく小さな手のひらが頬に触る。

顔の横で笑んだ鴆に思わず頬を擦り付けていた。

そんなことをしているうちに自室に着いていたので肩から鴆を下ろし、単衣に着替えてあらかじめ敷かれた布団に入った。

しかし鴆はリクオの枕元まで来ると畳にあぐらをかいて腕を組んだ。

そのまま入り口をにらんでいるが…




「おーい鴆、寝ないのか」





「寝てて良いぜリクオ」

「って言われてもな…」

「いつ誰が襲ってくるか分かんねーだろが。護衛だよ」




いや、そんな胸はられても可愛いだけなんだが。

言っちゃ悪いが鴆じゃ護衛は無理だろう。

というか仮にリクオが敵だったら主よりもまず鴆を捕らえると思う。




「ここは本家だぜ?飲んでても敵の侵入くらいは気づくって」

「気にすんな!!義兄弟を護るのもオレの役目だからな!」

「うん、気にしねぇけど話噛み合ってねえよな」

「まさか生きてるうちにオレ一人でリクオを護れる日がくるなんてなぁ」

「そして独走」




さっきの甘い雰囲気はどこへやらだな。

リクオは枕に頭を預けたまま嬉々としてはしゃぐ鴆を見てため息をついた。




「ほら!オレが見張っててやるから早く寝ろ!」

「鴆と一緒がいいな」

「お、おいリクオ!!;」




普段なら馬鹿とかやめろとか言われて胸を押してくる鴆。

勿論今ももがいてはいるけどサイズがサイズだ。

リクオの手のひらに包み込まれて易々と布団に引きずり込まれた。






「温いな、さすが湯たんぽ」

「ガキかよ…ったく」

「いいだろ。けどちょっと残念」

「……なんで」

「このサイズじゃ抱けねえ」




耳元で囁かれてどくんっと心臓が跳ねた。

リクオの瞳が色気をもって輝き、艶めいた吐息を全身に感じて己の欲に震え上がる。


――目、逸らせねぇ


向かい合ったままうっとりと魅入っていると頭部の獣耳を軽く噛まれた。




「あ……っにゃ…」

「あ、でも抱けねえけど喘がせることはできるな」

「やめ…っ……噛む…にゃあっ!」

「いいぜ、鳴きな鴆」

「んんっ……ひぁっ…あぅ」




べろりと耳を舐め、有無を言わさず小さな体の着物をはだけさせる。

指で胸をなで上げて僅かに尖った飾りを擦るように押しつぶした。




「あぁあっ…んぅ…待てっ…てバカ…ぁ…」

「小さくても弱いとこは変わんねーのな。しかもまだオレ指一本しか使ってねぇのに」

「ひ…とを玩具みてぇに……」

「ああ、すっげえ愉しい。」

「はっ…いいご趣味で」

「どうもどうも。けどおめぇはどうなんだろうな?」

「あっ!!やめ………んぅっ」


そうして小さな鴆をさんざん喘がせ楽しみ、綺麗にしてやったまではいいが。



「あー…自分の事忘れてたぜ」



小さくても好きな相手の淫らな様は欲情するには十分で。

完全にその気になってしまった自身を抑えなければいけない事をすっかり忘れていた。

すやすやと隣で眠る鴆に、自分だけ気持ちよくなりやがって…と理不尽な視線を向ける。




「はぁ…」




リクオは鴆の愛らしい寝顔でまた元気になった自身にため息をつき、欲を解消すべくして風呂に向かうのだった。



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