3
すっかり腰を落ち着かせた夜。
あぐらをかいた上に昼を座らせ杯を傾けていた。
「どーせお前らが首無と昼をあおったんだろうがよ」
「あれ、分かっちゃいました?」
「あの時の毛倡妓の顔といったら…」
「あたしがどんな顔してたっていうのよ」
「嬉々としてまるで…」
「悪女、もしくは魔女」
「あ、それですな」
「いや鬼女ともいえたかもしれん」
「あー、っぽいな」
「あんたらいい加減になさいよ…」
毛倡妓の髪が揺らめくのに気付いた男3人が慌てて口をつぐむ。
どうどうと夜が宥めていたが腕の中の昼が唸った事で場が少し和んだ。
特に毛倡妓がぱぁあっと花を飛ばして近寄ってくる。
「それにしても昼若様がこんなに甘えたさんだとは思いませんでしたよvV」
「さわんなよ」
「さわりませんって」
「しかし本当に夜若様にベッタリだな」
「ああ……」
青田坊の呟きに夜が目を細めた事に3人は目を見張った。
その顔は本当に嬉しそうで、昼が膝に乗っているだけでも相当嬉しい事が窺える。
因みに夜の昼に対する片思いは既に知れ渡っているので、応援している側近達にはこの図はなんとも微笑ましい。
「あのですね夜若様」
「ん?」
「昼若様、首無との勝負に勝ったんですけど」
「昼が勝ったのか」
「どっこいどっこいですがね。で、覚醒したみたいにいきなり立ってきょろきょろしだしたと思ったら、ふふ、「よるは?」って走り出しちゃって」
「昼が?マジ?」
毛倡妓の囁きに金無垢の瞳が信じられないという風に見開かれた。
「マジマジ、大マジですよ。もう一心不乱に夜は!?夜は!?って」
「そうだったなぁ、昼若様がそこらの肴蹴散らしてくくらい慌てるもんだからびびったぜ」
「拙僧が“夜若様は台所です”と言ったら“迎えにいく!”と申されて」
酒に顔を赤らめながら各々が楽しそうに話して聞かせる。
酔っていたとはいえを拒み続けていた昼が夜を夢中で求めたのだ。
片思い中の夜のリクオが喜び笑うのを予想して、3人は凛と座る若頭を見やった。
だが予想とは裏腹に、夜は口をきゅっと結んで額を手で押さえていた。
「夜若様?」
「あ……あぁ、大丈夫」
心配気に覗き込んだ毛倡妓に夜はハッとして苦笑いを浮かべた。
ぐしゃぐしゃと己の髪をかき回して、ふぅーっと息を吐ききる。
「息するの忘れてたぜ」
吐息を笑い声にかえてそんな事を言う。
「嬉しすぎて胸がつまった」
既に寝息を立て始めていた昼に顔を寄せて、白い首筋に唇を寄せてみる。
言葉にならない歓喜の声をなんとか吐息に変えて柔らかな肌に吹きつけた。
この腰に絡みついたお前の腕。
見上げる栗色の瞳も、弧を描く艶やかな唇も、ぜんぶオレに向けられてたよな。
あん時お前が言った言葉もちゃんと覚えてんだぜ。
『いやらっ!よるといたいのーっ』
なァ、期待してもいいのかい。
オレはお前を独占してもいいのかい。
嗚呼、また息がつまる。
『あ、よるら〜おかえり〜』
起きてくれよ、昼。
「……ただいま、昼」
ちゃんと酔いの覚めた目でもう一度オレを求めてくれないか。
了
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