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夜の肩で遊び続ける昼に顔をしかめながら、そこいらに転がる酒瓶を跨いで進む。
テーブルなんかは有って無いようなもので妖怪の殆どが畳に直に杯や肴を広げていた。
中にはどこで学んできたのか、空いた酒瓶を並べてボーリングらしきものをしている妖怪もいる。
その瓶を倒さないようにひらりと軽く飛び越え、夜はため息をついた。
「はぁ…ったく、障害物競争だな。ゴールが遠いぜ」
直線的には5メートルもないのにごちゃごちゃしてやけに遠く感じる。
耳をつんざくような笑い声も障害物というか障害音というか。
「よーるー♪」
「はいはい。けどまさかお前が飲むなんてな」
「うん!おいしかったよ〜?」
「そうかい良かったな」
酔いのせいかころころとよく笑う昼に微笑む。
思えばこうして昼を抱くことなんか初めてじゃないだろうか。
夜の自分が触れるだけで昼のコイツは恥ずかしさで逃げてしまうから、抱っこなんて夢のまた夢だった。
でも確かにばかとか駄目だとか否定の言葉を浴びせはするけど、俯いた昼の頬はそのたびに真っ赤に染まっていた。
嫌がられてはいるけど、脈が無いわけじゃない――?
それが片思いの自分が導き出した答えだ。
まぁ、都合がいいと言われればそれまでだけど。
「オイ、そろそろお開きにしな」
「あらら夜若さまーご機嫌うるわしゅう〜♪」
「ご機嫌うるわしゅうなのはおめぇだろ毛倡妓」
「ん?担がれていらっしゃるのは昼若様では?」
「そうだよ、お前らがコイツに飲ませたから変な絡み癖がでてきやがった」
夜を見つめていた黒田坊があはは…と苦笑した。
猛者グループは毛倡妓、黒田坊、青田坊を中心にして構成されている。
奴良組の酒宴はこの猛者達がお開きにするまで終わらないのだが、もちろん最後まで残る妖怪はいない。
皆がつぶれていびきをたてる明け方にようやくその重い腰が上がるのだ。
だいたい夜が飲酒兼見張り役として上座にいるが、今日は昼の介抱を優先させたい。
酒宴を早々に切り上げるには猛者を引き上げさせるのが手っ取り早い。
「夜若様違いますよ。あたしらが飲ませたんじゃなくて昼若様がご自分で飲まれたんですよ」
「んなわけねぇだろ」
「本当ですって、首無と飲み比べしたんです」
「首無とだぁ?」
それが事実だとしたらなんと低レベルな戦いだろうか。
酒に弱すぎる首無と人間で未成年な昼。
どっこいどっこい…というか勝負にもならねーだろ。
「まぁまぁちょっとお座りくださいよ夜若様」
「おお」
ちょうど昼を抱く腕が辛くなってきたところだ。
畳に手をつき尻をつく。
「Σうぉああっ!?」
「ど、どうされましたか」
「な、なんか尻にある!」
「あ」
びよんっと飛び上がった夜の下には
「あぁ…もうムリですって…」
「首無じゃねぇか;」
「あ、そんな所にあったのね頭、探してたのよ〜」
「毛倡妓もうちょっと優しく掴めよ。わしづかみっつうんだぞソレ」
「しかし夢でも飲まされているようだが」
「ほんと難儀な奴だよな…;」
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