１
※昼と夜が現実世界に同時に存在しています。
若頭といってもただ上座で飲んでいるわけにはいかない。
酒豪の集まりである奴良組では自分の飲み分が無くなれば自分で調達するしかない。
それはたとえ奴良組三代目であっても当てはまることで、給仕が倒れたまさに今現在台所から一升瓶を抱えて戻ってきたところだ。
…が、
「あ、よるら〜おかえり〜」
「昼お前…顔真っ赤」
どんちゃん騒ぎする居間に入った途端、昼の腕が夜のリクオの腰に絡みついてきた。
頬は真っ赤に色づき、とろけるような瞳に見つめられて一瞬うろたえる。
――飲んだ後にお持ち帰りするやつの気持ちが分かるな
などという不謹慎な考えをあわてて端に追いやり、広間の中を睨みつけた。
「オイ誰だよ昼にこんなに飲ませたヤツぁ…」
「ひっ!!ワシじゃないです！」
「ワシでもないです!!自分が飲むのに手いっぱいでさぁ」
リクオに睨まれる度それぞれが一様にぶんぶんと首を振り弁解する。
そうする間にも酔った昼がぶら下がるようにして体重をかけてくる。
いや、本当は嬉しくて仕方ない。うん、このまま甘えさせておくのもなかなかにイイかも。
などと思ったが止めた。後々昼が覚えていたら庭にでも吊されそうだ。
夜はため息をついて頭をかくと、一升瓶を小脇に抱えてしゃがみぐでぐでと力の抜けた体に腕を回した。
「じゃあ誰が飲ましたんだよ」
「あそこにいる奴らですよぉ」
「どこ」
「後ろ後ろ」
昼の頭を逆の肩において小鬼の指差す方を見た。
きゃはははっと一際高い笑い声が上がるそこには、納得のいく酒の猛者達が堂々鎮座していた。
「ま、だいたい予想はついてたけどな」
「よる〜？なんか髪伸びたぁ〜？」
「んなわけねーだろ、しっかりしな」
こちらは相変わらずのとろけた声。
夜のリクオの背中にまわした手を艶やかな銀髪に絡めて終始ニコニコしている。
真面目でいつもなだめ役の昼が泥酔だなんて……
しかもここまで絡み癖があるなんて知らなかった。
――誰彼絡みつかれちゃたまんねぇな、オレが。
誰彼とは強いて言えばあそこに鎮座する猛者達の事を言う。
質の悪い酔っ払いオヤジ達に手を出されては困るのだ。
…ちょっと言い過ぎか？
ま、それはおいといて。
「なぁお前らちょっと昼を見ててくんねぇか？」
「よろしいですが、夜若様はどちらに？」
「酒豪共にそろそろお開きって言ってくんだよ」
「おぉ、もうそんな時かぁ」
ひとまず昼を害を与えなさそうな小妖怪達に預ける事にした。
ちょっと寝れば酔いも覚めるかも。
そう思って昼の腕をはがしにかかったのだが、離れない。
ちょっと力を入れて引っ張ったが、むしろ首に絡まった。
「よ、夜若様;」
「離れませんな;」
「おい、昼？ちょっと離してくんねぇか」
夜が優しく背をさすって問うと、昼はいやいやと首を振った。
栗色の柔らかい髪が首筋を行き来してくすぐったい。
「よるといる」
「そう仰らずに昼若様」
「我らとこちらで待っていましょう？」
「いやらっ！よるといたいのーっ」「はぁ…しょうがねーな」
「夜若様？」
夜はうぅーと駄々をこねる昼の背をぽんぽん叩きながら変わりに一升瓶を小妖怪に渡した。
そして昼の足をすくって横抱きにする。
「ちょっと危ないけど抱いてく。それ飲んでいいから」
「あ、了解ですお気をつけて」
まるで出入りに行く時のような声をかけられて苦笑する。
いまだに首にすがりつく昼は耳をいじったり背中側の着物の中に手を突っ込んだりして笑っている。
――頼むから止めろ…！
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