「なぁ、何でオレらを組に入れようと思ったんだ」

「…………。」

「あの日あそこでオレらを斬ってもお前どうってこと無かっただろう」

「まーな」




正直に頷く鯉伴。

その反応に少し恐怖を感じて、ふぅっと吐き出された煙を目で追った。




「けどやっぱ…オメーらに、特にオメーに本当の強さってもんを知って欲しかったんだろうな」

「あん時言ってた事か」

「おー」




鯉伴は最後の煙を吐き出すとカンッとキセルの灰を落とした。



「オメーらの間に何があったかなんて野暮な事聞く気はさらさらねぇし、世話を焼きてぇとも思わねー。ただ、あの日斬らなくて良かったとは思ってる」

「――――。」

「なんか気に入ったんだよなオメーらがよ!」

「……んだょ。結局直感なのかよ」




やれやれと身体を起こした首無の前に何かが差し出された。

綺麗な指に乗り、日の光に煌めく紅杯は鮮やかな緋色に染まっていた。




「うちの組に来たって事はオレの杯受けようと思ったんだろ?」

「それはっ……」

「オレに預けろよ、オメーの全てを。」

「――――。」

「全部受け止めてやっから」



なんて、広い器だろう。

魅せられる。

引き込まれる――

否、きっと既に惹かれていたのだろう。

奴良組に来る前から
この方に“生かされた”あの日から。

深く艶やかな、この緋色の紅杯のような麗しい男に。




首無はその場に正座すると、両拳を前について深々と頭を下げた。




「その御杯、まだございますでしょうか」

「………」

「是非とも貴方の杯を私に。貴方への忠誠の証が欲しいです」

「……顔上げな、首無」




言われるがままに顔を上げると微笑んだ鯉伴と目が合った。




「ひとにモノを頼むときはそいつの目を見るもんだ。覚えときな」

「はい」

「で、杯が何だって?」

「貴方と杯を交わさせてください」

「え?」

「だから杯を……」

「なに?もう一回」

「……テメェぶっ殺す!!」




ぶちキレた首無の拳を鯉伴はゲラゲラ笑いながら華麗にかわした。

――真面目な口調で目だってしっかり見たのに…やっぱり嫌いだコイツっ!!///

耳まで真っ赤にしているのを悟られないようにとにかく攻撃する。

――けど、これで正式にこの人の下僕になれるんだな

意識して少し心が弾んだ時、ふわりと誰かに抱きしめられた。

驚いて浮いた頭を少し捻ると、縦縞の着物と鯉伴の笑顔が見える。




「やっとお前と杯が交わせる。本当に長かったぜ」

「…そんなに大事じゃないでしょう」

「いや、お前をオトすのは正直骨が折れた。」

「お!オトす!?」



そ。オトす。

違う意味で赤くなった首無を離して、にいっといたずらっ子のような笑みを浮かべる鯉伴。

そして屋根に面した窓に歩いていくと、片足を屋敷内に入れながら言った。




「夜になったらオレの部屋に来いよ、杯やるから。じゃあな」

「あ、あの!」

「ん?」




首無は立ったまま背筋を伸ばしてもう一度深々と頭を下げた。



「ありがとうございます、二代目!」

「…あぁ」




++++++



そしてその夜――



「これれわたしも〜あらたのしもべれす〜」

「どうしちゃったのよ首無!?」

「こいつ酔ってやがる…;」

「えっ?杯一杯で!?」

「ふにゃ〜」

「お前給仕係決定な」

「あい〜♪」



とりあえず首無の仕事が決まった。





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