それからも首無は毎日のように屋敷に罠をしかけた。

だが二代目は最初ひっかかっていたのが嘘のように、舞うようにひらりひらりとそれらをかいくぐった。

そして悔しそうに美麗な顔を歪める首無を見ては「精進しな」と楽しそうに声をかけるのだ。





「(何してんだろうな)」




そんな毎日を繰り返していたある日の夕暮れ。

屋根の上で1人夕焼けを眺めていた首無はふと思ったのだ。


義賊として盗みを働いたり、紀乃と2人で萩屋に制裁を下したり。
今までの記憶を思い返せば毎日ずいぶん気を張り詰めて生活していた事を感じる。

そう感じてしまうくらい今の暮らしが平和で安らげるものになっていた。

それもこれも現奴良組大将である鯉伴が自分たちに居場所をくれたからだと自覚していた。
鯉伴がさりげなく妥当な距離を計りながら接してくれている事も薄々は分かっていた。



なのになかなか「ありがとう」の一言が言えない。
「世話になる」でも十分なのに



「何してんだろうな、オレ」



『もう少し素直になってみなさいよ。もっと居心地良くなるから』



紀乃にも今朝そうやって諭されたばかりだ。

うん分かってる。

久しぶりにそんな優しい声音が出た。

分かってるんだ。
感謝してるんだ。
でも言えねぇ。言葉にできねぇ



「あいつの見た目のせいだな」


のらりくらりとしてどこか抜けてるような。
手下の妖怪と話す時も主従は前提にあるのだが、まるで友だちと話すようによく笑う。
裏表が無いというのかもしれない。
その証拠に真っ直ぐな瞳はいつも首無を見据えていた。
時に優しく、時に厳しく、まるで我が子を見守るような優しい瞳で。


こんな優しい総大将いるもんかよ。




「なるほど」




やっと分かった。

そう呟いて、ごろりと寝転んだ。




「やっと分かった」

「何が分かったんだい?」

「……てめぇをはめる方法」




思わず何時ものクセで吐き出した言葉に首無は舌打ちした。

違うのに。
本当に言いたいことはこれじゃない。

いつの間にか屋根にいた鯉伴は振り向きもしない首無にからからと笑うとその隣に座った。




「まだそんなのやってたのか」

「てめぇのアホ面が見たくてね」

「ほんと憎たらしいやつだねぇ」

「お褒めの言葉もったいのうございます」

「あーあ、毛倡妓はあんなに慕ってくれてんのにねぇ。何が気に食わないんだよ」

「…………。」




言葉を発さなくなった首無を一瞥すると、鯉伴は懐からキセルを取り出してふかし始めた。


――じっくり待ってやるから

そう言われた気がした。

――待つのは嫌いじゃねぇんだ



「(ほら、その懐のでかさ)」



鯉伴とは逆のほうに寝返りをうって横になる。



大将ってのはもっと傲慢で、貪欲で、忌み嫌われるもんだとばかり思っていた。

優しさなんて欠片もなくて平気で部下を切り捨て踏みにじるもんだと思ってたんだ。



だから実を言えば鯉伴に会って少し、戸惑っていた。

その広い背中に抱きついてしまいたいくらいに魅了されてしまう自分をどうしたらいいか分からなかった。

強くて凛々しくて、優しさを根底に持つ男。



奴良組の総大将にではなく、鯉伴という男にひたすら夢中だとさっき気づいてしまったのだ。



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