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慌てた様子の毛倡妓は目を白黒させながらオロオロと鯉伴を見下ろした。
「に、二代目!大丈夫ですか!?」
「これが大丈夫に見えるかい」
「毎回毎回あんたも懲りないよな。おもしろいくらいに引っかかる」
「懲りねぇのはお前さんだろ。オレをはめてそんなにおもしれぇかい」
「あぁ、おもしろいね
パコーンッ!!
……いてっ!!」
「すましてんじゃないよ首無!早く引き上げんだよ」
叩かれた首無の頭が激しく揺れた。
さすが姐さん。知り合いだろうが何だろうが容赦はない。
不服そうに頭を撫でる首無は小さく舌打ちして毛倡妓を見つめた。
「確かめてやってんだよ。オレらがこいつについていって大丈夫なのかを」
「こんなガキみたいな事して?呆れた。それにもうとっくに答えは出てたじゃないの」
「…………っ」
「だから此処に来ようって2人で決めたんじゃないの。……まったく、素直じゃないわね」
「…うるせーよ」
そう呟いて首無が目を逸らした事で言い合いは途切れた。
――どうも二代目に対しては素直じゃないのよね
毛倡妓はここに来て何度目かの苦笑を零した。
奴良組に入ったその日は、行き場を失った自分たちを心良く受け入れてくれた鯉伴に感謝したものだ。
もちろん今も感謝している。
訳ありな自分たちに根掘り葉掘り問う事もしないで、仲間として温かく包んでくれるような大きな器に毛倡妓は心から感謝しているのだ。
それは首無も同じなはずなのに。
――なんでこんなに意地になるのかね
事あるごとに屋敷にトラップを仕掛けて鯉伴を引っかける様はまるで小さな子どものように見えた。
この様子じゃ礼の1つも言っていないのだろう。
本当に素直じゃない。
「つべこべ言わず二代目を引き上げるわよ」
「はぁ……っ!?…アレ?」
「どうしたの?…あら?」
先ほどまで鯉伴が埋まっていた床板はもぬけの空だった。
砕けた板がパラパラと穴に落ちていく。
両手も埋まっていたはずなのにどうやって……?
「首、捕った」
「「!?」」
す、と目の前に添えられた妖刀。
背後で微かに笑う気配に2人が一緒に振り返った先で鯉伴が笑んでいた。
「いつの間に……」
「なかなかおもしろかったぜ?けどまだまだだな」
鯉伴はもう一度ふふっと柔らかく笑うと妖刀を鞘に戻してひらりと手を振った。
「精進して出直してきな」
「さすがね。一枚上手だわ」
「あんのやろ〜〜っ!」
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