傍まで行くとさらに圧巻だった。

太い幹に触れるとどこか安心感があって、そこから伸びる枝も花も見惚れるくらいに美しい。

ここに灯りが無いのを見る限り、首無さえも知らない場所だということか。




「よいしょ」

「おわっ!馬鹿っ、リクオいいって自分で登るから!」

「お前遅いだろ、待てねぇ」

「だからっておめぇこんな…女じゃあるめぇし」

「どっかの姫様みたいだろ」

「馬鹿にしてんのか畜生」




オレを横抱きにしたリクオはクツクツ笑いながら軽々と枝を跳んだ。

一際太い枝に着いて、桜が散らないようにゆっくり腰をおろす。

見上げればどこもかしこも桜、桜、桜。

でもしつこくはない。

リクオと隣合って花の間から見える下弦の月を眺めれば、言い表せないくらいの喜びがこみ上げた。




「有り難うな、リクオ」

「何が?」

「オレをここに連れてきてくれて。だよ」

「……当然の事だ、なんなら日本の桜全部まわってやってもいいぜ」

「ははっ、お前ならやってくれそうだ。…けど、オレはそんなに保たない」




オレの方を向いていたリクオが露骨に眉をひそめた。

ただでさえ威圧感のある艶やかな瞳でオレを真っ直ぐ見据えている。




「鴆おめぇまだそんな事言ってんのかよ」

「事実だ。短命なのは変わらない、運命はそう簡単には変わりゃしねぇんだよ」

「鴆」




いよいよ怒気を含み始めたリクオの声を手で制した。

リクオはこの話をするとすぐに怒ってへそを曲げる。
馬鹿やろうと罵られもしたし、1週間無視されたこともあった。

それでも運命はかえられない。どんなにリクオがオレに怒鳴ったとしても、オレの体は自らの毒に蝕まれて朽ちていくだろうから。

だから――




「だから、こうしてお前といれる時間が有り難いんだよ。全国の桜もまわれたらどんなにいいか…けど、そこで倒れりゃあオレは終わりよ。分かるんだよオレは」

「ぜん」

「不慣れな土地で落ち着かねーまま死ぬのはごめんだ。それならお前と出会えたこの地で、お前の腕の中で、オレは安らかに逝きてぇ」




花びらが頬に張り付いた。

湿り気を感じて自分が泣いていることに気づいた。




「大丈夫だ。オレはお前が三代目を継ぐまで絶対に死なねえ、絶対に生き延びてやる」

「遠慮すんなよ鴆…三代目襲名までなんて言わねーでさ」

「くくっ…そうだよな…けど」




けど…と濁したまま何となく枝を撫でていた。





「こんな桜を見てっともうこのまま逝ってもいいかって思っちまうんだ」

「チッ…」

「リクオ?」

「じゃあ見せない」



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