緊張のせいで心臓はバクバクと忙しない。
けれど鯉伴の腕の中はやっぱり心地よくて、背にまわされた腕や自分の肩をあやすように叩いてくれる手に無意識にまどろんでいた。



「鴆、オレの息子はどうだい」

「若の事ですか」

「リクオでいいよ、いつもリクオって呼んでるだろう」

「……。リクオは優しいです」


逡巡した鴆は一瞬上目遣いに鯉伴を見てから照れたように言った。



「こいつ、イタズラばっかしてるけどちゃんとオレの事見てくれてるんです。なんていうか…もうすぐ元服を迎えるオレの不安を紛らわそうとしてくれてるっていうか」



鴆という妖にとっての元服は大人への第一歩であると同時に、苦しみへの第一歩でもあった。
猛毒に染められた羽は身体を蝕み、羽ばたく術を己から奪い取る。
美しさとひきかえに奪われる自由は運命だと受け止めるには幼い三代目の鴆にはあまりに酷だった。



「本人はそんな意識ないかもしれないけど、少なくともオレにとってはすごく有り難いんです。甘え…かもしれないけど」

「甘えられる相手は何人いたっていいもんだぜ。お前にとってそれがリクオならオレは嬉しい」



くしゃくしゃと頭を撫でられて、リクオをよろしくな、と続けた鯉伴の言葉に鴆は大きく頷いた。



「それにお前の主はきっとオレじゃなくてリクオだからな」

「え?二代目はどうなさるんですか?」

「そうだなぁ…隠居して若菜と旅でもしようかな」

「仲が良いんですね」

「くくっ、お前らほどじゃねーよ」

「仲良く見えますか?」

「違うのかい?寄り添う姿なんか恋人に見えたけどな」

「こっ!?…」




―おっと、まんざらでもねぇか

みるみるうちに真っ赤になる鴆に鯉伴は薄く笑った。
それなら既にこの2人は両想いということになるな…と瞬時に結びついた。
リクオから聞く話には必ず鴆が出てくる。
『今日鴆くんに薬草を教えてもらったんだよ!』
から始まり、
『明日も鴆くんと遊びたいな…』
で終わるのだ。


だから父親としては正直やっぱり鴆にヤキモチなんかやいたりもするわけで。
それこそ恋人のできた子どもを見守っているようなそわそわ感。



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