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鯉伴が縁側に向かうと小さな子供が2人寄り添うように座っていた。
というより倒れかかる片方を、もう1人が支えているようだった。
「なんだ、寝ちまったのか」
「二代目!」
鯉伴を見つけるなり薬師一派の跡取りはかしこまったように姿勢を正した。
そのせいでずり落ちた息子の頭を笑いながら受け止める。
「あぁっ!すみませんっ」
「そんなかしこまんなくていいんだぜ。茶を持ってきただけだからよ」
「畏れいりますっ!」
駄目だこりゃ。
どうやら真面目で忠誠心が強いのは鴆なる妖の性らしい。
キリリと一瞬の隙もない顔をして鯉伴をしっかりと見つめる姿が先々代の鴆に重なる。
さっき見た日だまりのなかでリクオを見つめる顔はすごく優しかったというのに。
「隣、いいかい」
「はい!どうぞ」
片手で軽々とリクオを抱き上げてあぐらをかいた上に寝かせる。
その様子を食い入るように眺めていた鴆は鯉伴と目が合うなり顔を伏せた。
まるでリクオを羨ましがっているような瞳だった。
それを感じ取った鯉伴がふ、と笑って鴆に話しかける。
「親父さんは相変わらず忙しいのかい?」
「はい。患者が絶えることなく訪ねてくるので」
「そうか、お前の親父も真面目で働きもんだからな…」
「毎日働きづめですので倒れないかと心配するばかりですよ」
「ははっ、息子に心配かけるなんていけねぇなぁ」
軽やかな笑い声がのどかな本家に響く。
腕の中で眠るリクオが少し身じろぎして着物の合わせを握った。
鯉伴はひとしきり笑うと苦笑を浮かべた鴆に向かって自分の膝をポンと叩いた。
「ほら、来な」
「ぇえ!?」
「あの親父の息子だ、一度は抱っこしとかねぇとな」
「めめめ滅相もないっ!そんな二代目のお膝など…」
「なんだ、そんなにオレの膝が嫌か?」
「まさかっ!」
「じゃあいいだろう、来いよ」
もう一度ポンと膝を叩くと鴆は顔を赤らめて迷ったようにリクオを見た。
鯉伴の大きな腕に抱かれた姿をやはり羨ましげに見つめている。
現頭首の膝に乗るなんて畏れ多くてできるわけがない。
けれど、父に似たその腕の中はさぞかし心地よい場所なのではないだろうか。
そんな葛藤が聞こえてきそうで鯉伴は笑みを浮かべて鴆の表情を窺っていた。
やがて、
「し…失礼致します」
心地よさをとった鴆がゴクリと喉をならして恐る恐る鯉伴の膝に手をかけたのだった。
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