一歩 ※

月の無い新月の夜、桜の木の上でゆったりと酒を飲んでいるとさくさくと足音がして目をそちらに向けた。
そこにいたのは畏れを纏わないもう一人の人間の自分で、オレを見上げるなりにこりと笑んだ。



「こんばんは」

「どうした?寝たんじゃねぇのか」

「目が冴えちゃって眠れなかったんだ。あと君にお礼を言わなきゃって思ってさ」

「お礼?」



そうお礼、と頷いた昼の前にひらりと舞い降りる。
そんな夜に昼は太陽みたいな笑みを浮かべて有り難うと言った。



「……何の礼か分かんねえんだけど」

「この前ボクの相手してくれたお礼。青田坊に聞いたんだけどなんか君にいろいろ絡んだみたいだから」

「……あ、あれか」



どうやら昼は先日の宴会の時の事を言っているらしかった。
首無と飲み比べをして勝利した昼が夜に絡みまくった事件。ぐでぐでに酔って、(夜に)絡むだけ絡んで、爆睡したという…昼のリクオには珍しくハメを外しまくった出来事だ。

けれど正直夜のリクオにとっては舞い上がるほど嬉しい事だった。
何しろあの昼が自分にべったりなのだから。あの真面目で恥ずかしがり屋で人前でのベタベタを苦手とする昼が、だ。
酒は人の本音を引き出す一種の薬だといつか鴆に聞いたことがあるが、それが本当だったらまさに昇天してしまいそうな喜びだった。


『よるといっしょにいたい』


嗚呼、また思い出しちまった。



「どうしたの、夜?」

「……何でもねぇよ。二日酔いはとれたかい?」

「それが全然とれなくてさ。頭痛くって今日大変だった」

「あんだけ飲めばな」

「君みたいにはいかないね、誰かさんが一升瓶飲み干すの見慣れてたからいけると思ったんだけど」

「………何が言いてえんだよ」

「夜のボクはザル」

「昼のオレは負けず嫌いだな」


くくっと喉を鳴らして笑う夜に昼も笑った。
けれど昼の笑みはすぐに苦笑いに変わって、あの…と気まずそうに夜を見上げた。



「ボクが酔った時さ、君に…その、いろいろ口走ったみたいなんだけど…」

「覚えてんのか?」

「途切れ途切れにね;;よ〜る〜ってずっと言ってたし、しがみついて離れなかったし。ごめんね」


そう言うと昼はすこしおどけたようにしてありがとうとまた頭を下げた。



「じ…じゃあボク寝るね。おやすみ」

「…あれ、本音だったのか」

「え?」



足早に帰ろうとしていた昼が首を傾げて振り向く。



「オレと一緒にいたいって」

「………」

「オレにしがみついて甘えてたのは、お前の本音なのか」

「………。や、やだなぁ」



あははっと声をあげて笑う昼の様子は明らかに不自然だ。
何かを必死に隠しているような歪な笑顔なんて、昼には似合わない。



「あれは酔って絡んじゃっただけだから。ボクも自分でびっくりしたくらいでさ」

「頼む」



ぎゅっと手首を掴まれて昼の口が止まった。
見上げる先で涼やかな瞳が歪んで、ただ一心に昼を見つめている。



「本当の事言ってくれ」

「夜……」

「お前の本音がオレを拒むものなら、オレはちゃんと諦めるから。もう期待なんかしねぇから」

「――――。」

「お前も気づいてんだろオレの気持ちを。こんな曖昧な感情のまんまじゃ妖怪の大将になんかなれやしねぇんだ、頼む」
こんなにも余裕を無くした夜の自分を昼は見たことが無かった。

夜の気持ちに気づかないほど自分は鈍くはない。

家族に対する愛情とはまた違う特別な感情を彼の全身から常に感じていたのだから。
度々紡がれる“好き”の言葉の意味が分からないほど、自分は子どもじゃない。



いつか、こうなることはわかっていたんだ。





「ボクも、君が好きだ」



そう小さく呟いた途端に腕を引かれて抱き締められた。
頬に感じる夜の心音はどくどくと早い。



「嘘ですとか言うなよ」

「言わない、ボクは君が好き。家族に対する好きとは全然違う」

「なんで早く言わなかったんだよ」

「だって……わかんなかったんだもん」

「わかんなかった?」

「自分の気持ちが君への愛情なのか憧れなのか。曖昧な気持ちで君の気持ちに応えたら失礼だから」



昼は昼なりに夜のためにいろいろと考えていたらしい。
背中に回された両手が着物を握る度にその葛藤を感じる気がする。



「でも今日やっと分かった。やっぱりボクは君が好き」

「ひる」

「待たせてごめん」

「……っ!」

「ぅわわっ!?ちょ、待って!」

「何でだよ!我慢しただろ!?」



昼にキスをせがんだ夜が不満全開で叫ぶ。
対する昼は自ら夜の腰にひしと抱きついて顔をうずめると必死に抵抗した。



「ここ家だからね!?しかも庭だからね!?TPOを考えてよ!」

「時間、場所、場合。どれをとっても完璧だろ」

「最悪だよ馬鹿っ!」




それからぎぎぎぎ…と必死の攻防がしばらく続いたが先に折れたのは夜で、ため息をついて昼を抱きしめた。



「ほんっと負けず嫌いだなお前はよ」

「君はほんっと変態だよね」

「オレは健全だ」

「よく言うよ」

「好きな奴目の前にして普通でいられるかよ畜生」

「……怒った?」

「……全然」



夜はぎゅううっと抱きしめる力をいっそう強くすると屈み込んで昼の耳元に口を寄せた。



「幸せすぎて目眩がしやがる」

「………」

「Σん!?」




昼と目があったかと思うと突然息ができなくなった。
気づけば唇は唇でふさがれていて、不慣れな口付けが一瞬だけ交わされていた。
すぐさま離れた昼の顔は真っ赤で、また目が合った瞬間視界を手で覆われた。




「み…見ないで///」

「お前…勝手すぎんだろっ」

「えっ!……んんっ…」



容易に自制心が振り切れたところで手探りに昼を捕まえてその唇を貪った。
深すぎる口付けに砕ける腰を片手で支えつつ、己の持てる技術全てで深く長く翻弄する。



「ぁ…ふぅ……はぁっ!はぁ、はぁ」



やっと離してやるとひゅうっと音がして昼が荒い呼吸を繰り返した。
未だ半開きの口や涙の零れる瞳のせいで貪欲な欲求がまた頭を上げ始めている。



「もっかいv」

「………ヤだ」

「なんだよ、良かっただろ?」

「ぅん……じゃなくて!酸欠が……はぁ…酸素が、足りない」

「大丈夫かい?まだ二日酔い中なのにな、先に謝っとく。ごめん。じゃあいただきます」

「じゃあって何だよ!ごめんで済むなら警察は……んんーっ!」





――その後の記憶は無い。

気づいたら布団に寝てて、隣には夜が一緒に寝てて。
たぶん酸欠になって倒れたボクを運んでくれたのだろう。


あんまり幸せそうに寝てるもんだから…



「とりあえず」

「ぐふっ!!」



腹を一発殴って二度寝を決め込んだ。







+++++
あとがき
やっとくっつきました^^;さりげにシリーズ化しているような気もしますがくっついたのでよしとする←
優しい攻めと純粋な受けが大好きですね。リク鴆も然り。
尻にしかれる夜若がたのしくてしゃーないです♪

ここまで読んでくださってありがとうございました♪


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