どれだけそうしていたか分からない。
それでもリクオはオレの答えを急かすことなく辛抱強く待っていた。
そうしてやっと紡ぎ出したオレの声は風のように掠れて青空に響いた。



「オレは…強ぇ百鬼の中で、大将の隣に座れてりゃそれで、いい…」



なんとも曖昧で大まかすぎて。
こんだけ考えてこんな答えなのかと我ながら呆れてしまったけど、隣にいたリクオは満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。



「じゃあボクが強い百鬼夜行つくってみせるよ」
「……本当か?」
「うん。だから…さ、鴆くんボクの夜行に一番に入ってくれないかな……」
「ヤだ」
「えぇっ!即答;;」



悲しみを露骨に出すあたりまだまだ子ども。早速涙目になる次期総大将に馬鹿、嘘だよと笑いながら言ってやる。



「どうもおめーは危なっかしくていけねぇや。オレが面倒見てやるよ」
「ってことは入ってくれるの?」
「おめーが立派に成長したらな」
「うん!ボク頑張るよ!いっぱいご飯食べて立派になってちゃんと鴆君を迎えに行くから!」
「ああ、待ってるぜ?」



所詮は子どもの簡単な口約束で、あてにならないなんてのは百も承知だった。
それでも頷いてしまったのは、ある影がリクオの背後にちらついたからだ。



『待ってな』


――誰だ、コイツ


『俺が必ず迎えにいってやる』


どこからか桜の花びらが舞い落ちて、鴆の視界を一瞬覆った。
次に視界が開けた時にはリクオの背後に艶やかな銀髪をなびかせた男が立っていた。

いや、男と呼ぶにはまだまだ子どもで年はリクオと変わらないように見える。
それでも鋭利で、冷ややかで、それでいてどこかやさしげな面もちはまるで作り物のように美しい。
そして何よりもその金色の双眸が鴆の瞳を捉えて離さなかった。



『もうすぐ、もうすぐだぜ』


――だからお前誰なんだよ



声に出さずそう問うたが、影の男は相変わらず綺麗な笑みを浮かべたまま霧のように消えてしまった。
そんな夢か現か定かじゃない空間からオレを引っ張り出したのは貫禄ある低い声だった。



「オイ、生きてるか」
「あ……親父」
「あ、親父じゃねぇよ…ったく心配させやがって」


顔の目と鼻の先でリクオほっとしたように胸をなで下ろしていた。
その後ろには銀髪の子どもではなく、鯉伴と父親が同じくほっとした顔で立っている。



「オレ……」
「もう、鴆君いきなり人形みたいに喋んなくなるんだもんビックリしたよ」
「リクオ、お前の後ろに誰かいなかったか?」
「うしろ?」



今さら見たって誰もいないがリクオと2人でそちらを見る。
子どもはおろか、桜の花びら一枚すら見つけることは出来なかった。



「お前夢でも見てたんじゃねぇか?」
「ん……分かんねー。なんか、鯉伴様にそっくりだったんだけど」
「ほほぉ、オレにかい?」
「実はもう1人子どもがいましたなんて言うなよ、鯉伴」
「さぁてね…んーどの女との子かな」
「おまっ……!」
「え!?ボクに兄弟がいるの?」
「あ、いや違うんですよ三代目;;」
「なあリクオ、妹か弟欲しくないか」
「ほしいっ!」
「だよな♪よし今夜あたり若菜に…」
「二代目ぇえええ!!」



サーー…と音をたてて木の葉が風にふかれていく。
舞うのは深緑の葉ばかりで、桃色の花弁はやっぱり見あたらなかった。

「誰だったんだろうな…」


迎えに来ると言われたからにはこちらは待っていなければいけないということか。
いつ来るのかも、何者かも分からない人を待つなんて。

それでもどこか楽しみでならない。心が疼いて自然と頬は緩む。



「リクオ!……様」
「いいよ今さら。リクオでいいから」
「じゃあえっと、リクオ」
「はい」
「ちゃんと…迎えに来てくれよな。待ってるからさ」
「はい!」



不意にきゅっと握られた手がじわりじわりと暖かくなっていく。
握り返した手のひらはまだ小さくて頼りないけれど、始めに感じた不信感はもう無かった。


コイツは大きく強くなれる。
確信の持てる己の大将の手を鴆はもう一度強く握りしめた。




++++++
その後の父親たち。


「やっぱり妖怪鴆は代々嫁に来る方なんだな」
「嫁だあ?いつオレが嫁に行ったよ」
「来たじゃねぇか、オレんとこに。惚れたんだろ?オレに(ニヤニヤ)」
「鯉伴お前…!盗み聞きしてやがったのか!!」
「そりゃあぬらりひょんだからな」
「もう最悪だお前!///」







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