「お前は百鬼を統べる大将になる気があるのか」
「うん、あるよ」



予想外の即答に鴆は目を見張る。
摘んだ野苺を弄ぶリクオの手を見つつ、次の言葉を待つ。



「いつかお爺ちゃんやお父さんみたいな総大将になりたいんだ、ボク」
「でも…お前ほとんど人間だろ?」
「人間がなっちゃダメかな」
「いや、ダメっつうか…あんまねぇよな、そういうの」



起き上がって頭をかいた鴆も傍にあった野苺を摘んで弄んだ。

駄目とは言わない。
だって半妖の鯉伴があれだけ悠々と、豪快に百鬼達を統べることができているのだから。
その息子であるリクオも少なからずその素質はあるはずなのだ。



「でもなリクオ。妖怪は本当に力のある大将にしか従わねえんだ。手前の命を預けても良いって思えるような奴にしか着いていかねえ。自分より劣るって判断したら直ぐに百鬼はバラバラになっちまう」
「……すごいね鴆君は」
「え?」



リクオが感嘆のため息をつきながら目を丸くした。



「だってボクより大将の事知ってるもん、すごい」
「そりゃあオレは付き従う側だから。自分の主は自分で見定めなきゃあ馬鹿を見るのはオレだ」「……ねぇ、鴆君」
「なんだ」
「皆仲良くって訳にはいかないのかな」
「は?」



意味が分からなくて思わず首を傾げてしまった。
そんな鴆に伸ばした足を抱えこんだリクオがだからさ、と幾分か小さい声で言う。



「従うとか統べるとかも大事だけど…なんていうか、本家にいる時みたいにさ、皆仲良く楽しくできないかなって」
「はぁ……。やっぱりお前人間寄りなんだな」
「うっ………」
「いいか?妖怪の世界は、なあなあじゃやってけねぇんだよ。生きるか死ぬかの戦場じゃ戦えねー奴はそこで終わり。おてて繋いで仲良くなんてできないに決まってんだ」



そこまで言ってはた、と気づき苦笑する。

――オレの理論でいけばオレが一番役立たずなんだよな



戦う為の刃を持たない妖怪鴆は家でぬくぬくと待つしかない。
高鳴る鼓動に武者震いして己の畏をぶつけ合う。
そんな百鬼を想像して羨む事しか出来ず、ただ正座して帰りを待つ父の背中を嫌というほど見てきた。

まぁ稀に、極々稀に二代目の意向で百鬼夜行に行かせてもらえる時は飛び上がって喜んでいたが。

「やってみないと、分かんないよ」
「え?」



少しだけ。
か細くて頼りない声の中に強い意思を感じて問い直した。



「最初っから決めつけてちゃ始まんないよ。妖怪は楽しい事好きでしょ?だったら殆ど人間のボクに任せるのもまた一興じゃない?」
「お前なぁ…一興のノリで大将やられてたまるかよ」



しかも一興なんて言葉をこの年で使うなんて、と内心で零す。



「じゃあ鴆君はどんな思いで百鬼に加わるの?」
「え」
「本家の皆は出入りから帰ってきたら絶対楽しかったーっていうんだ。それでそのままボクのところに来て“ただいま、楽しかったよ”って言って話してくれるんだよ」
「―――。」
「鴆君は、どんな百鬼夜行に入ってどんな事をするの?」
「………。オレは…」



次々と来る質問を必死に解いていく。

――オレは、何がしたい?


ばくばくと暴れだした鼓動を落ち着かせるように風が頬を撫でていく。

オレは百鬼夜行に加わって……主を守りてぇな。あと戦力になれるか分かんねーけど、最前線で戦えたら…無理かな。じゃあせめて、せめてオレは……



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