頼りない。
一言で言えばそうなる。
言い方を変えれば人間らしい人間。

妖怪のように人を化かす事を生きがいとしない、妖怪のように闇に生きようとしない。
日の光を浴びて、誰かに守られて、戦いなんてものとは無縁の、どこにでもいる人間の子どもだった。


――あれは見間違いだったのか


キラリと光った瞳がまだ記憶の中を巡る。
いや、ただ光があたっただけかもしれない。


――危ない鴆くん!


裏庭に足を踏み入れた途端バランスを崩した。
叫ぶ暇もなく片足をとられて大穴に落ちていく直前で腕を捕まえられる。


「お、落とし穴?」
「ごめん、ボクが掘ったんだ。青と黒をハめるつもりだったんだけど」
「危ないだろ馬鹿やろ!」
「ご、ごめん。でも大丈夫だから」
「……っ!?」


目の錯覚かもしれないのに、一瞬見惚れてしまった。


「大丈夫だから」


そういって細められた双眸が淡い栗色から金色に変わったのだ。
風に吹かれた雲が青空をすぎていくように、リクオの瞳の中を混沌とした何かが確かによぎった。

怪しくもどこか麗しい、間違えようのないその光は魑魅魍魎を統べる大将の血。



「リクオお前…」
「ごめんいま話かけないでぇええ……!!」
「あ、悪ぃ!!」


自分よりはるかに重い鴆の体重を引き上げながら叫ぶリクオに慌てて穴から這い上がった。
2人一緒に肩で息をしていたが、ふと目が合う。
申し訳なさそうなリクオに鴆は深呼吸してたずねた。



「罠はあといくつあるんですか」
「わ、罠だなんてそんな」
「これを罠と言わず何と言うんですか。トラップですか、仕掛けですか」
「それ全部一緒じゃん!っていうか…何でいきなり敬語になったの?」
「…お気になさらず」



見定めてみようと思った。
リクオの中に眠るぬらりひょんの血が、大将の血がどんなものなのか。

自分が一瞬でも見惚れて息をのんだこの子の畏をもう一度見てから、決める。



オレの主なのかを。



…と意気込んだまでは良かったが、あれ以来何が変わるわけでもなく。



「鴆くん虫が乗ってる」
「んー?取ってくれ」
「はーい…あっ!飛んだ」
「むっ!?」
「ぷ…あはははっ」


顔に天道虫が乗ってしまうくらい呑気な顔でまどろんでいるしかない。
けれど、ケラケラと笑うリクオを見ていたらごちゃごちゃ考えている自分が何故か損している気がしてきたから不思議だ。


額に乗った天道虫を指に乗せて空に掲げる。
赤い背中をぱっと開いて小さな虫は空を舞った。



「なぁ、リクオ」



天道虫の行方を追っていたリクオがなあに?と鴆を見下ろした。



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