「夜。」

「なぁに」

「お母さんも飾り作っていい?」

「……うん」



夜が少し顔を赤らめてぶっきらぼうに答えるのは照れくさいけど嬉しい時のサイン。
こんな顔も堪らなく愛しいのはやっぱり我が子ならでは。それに昼に比べるとずいぶん大人びている夜は、普段滅多に甘えようとしないからさらに嬉しくなった。



「そうだ。ほら、夜おいで」

「ええ!い、いいよ///」



ぽん、と若菜が膝を叩くと夜は真っ赤になって手を振った。



「いいじゃない、一緒に飾り作りましょうよ」

「だからって座んなくても;」

「そんなにお膝イヤなの?」

「イヤっていうか…」

「すきありっ!」

「ぅわぁっ!」




きゃーっと夜に抱きつくように腕を回して軽々と自分の膝に座らせる。いくら大きくなったと言ってもまだまだ母は強いようだ。



「………///」

「うん、やっぱりちょっと重くなったかしらね」

「…きつくなったら言って、退くから」

「あら〜優しいのね。ますます鯉伴さんに似てきたわ」

「親父に?」


ぱぁっと嬉しそうに目を見開いて此方を見上げる。鯉伴にこの顔を見せてあげたいけれど、きっと無理だろう。



「ええ、夜は妖だからかしらね、鯉伴さんにそっくり。昼は私似ね。」

「……母さん」

「なぁに?」

「どうやったら親父みたいになれるかな?」

「あら、夜は鯉伴さんみたいになりたいの?」



それは初耳だわと驚いてみせると夜は目を伏せて頷いた。
若菜も初耳とは言いつつも出入りの見送りに必ず夜がいる事から薄々感づいてはいた。どれだけ真夜中だろうと眠い目を擦りながら必死に父の背中を見つめていたから。




「んー、でも夜は何もしなくても鯉伴さんみたいになれると思うけどな」

「ううん、俺早く親父に追いつきたいんだ。強くなって母さんと昼と、奴良組の皆を守るんだ」

「ふふっ、お父さんは守ってあげないの?」

「俺が親父を!?まさか!」

「鯉伴さんなら喜ぶわよ〜“夜が奴良組を背負ってるうえにオレまで守ってくれてるなんて”って。感激して泣いちゃうかも」

「あははっ母さんそれはねぇよ」

「そう?でもお父さんって呼んであげたら泣いちゃうかもよ」


夜を向かい合うように抱き直して若菜はにこりと笑う。
きゃははっと笑い声が聞こえて庭を見ると、鯉伴に肩車された昼が笹竹を飾っていた。月光に淡く浮かぶ桜の中で戯れる親子はそこだけがこの世界から切り取られたように微笑ましく綺麗だ。



「さぁて、」



しばらく鯉伴を見つめていた若菜が夜を膝から下ろした。息子の柔らかな頬を両手で包み込んで、ぐりぐりと額どうしをあわせる。
言いようのない嬉しさがこみ上げて夜は思わずきゅうっと目をつむった。



「夜も飾りに行くわよ!短冊もそろそろ書いていいんじゃないかしら」

「………うん」



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