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だけど彼にはそうではないと思わせるモノがあった。
彼には、髪の間から黒いウサギのような耳がはえている。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
いきなりの普通の挨拶に困惑しながらも答えた。
返したのがうれしかったのか、少年はさらに笑みを深くした。
とっさに挨拶をしてしまったけれど、この子は一体なんなのだろう。
よく見れば服もお伽話にでも出てくるかのような、変わった服を着ている。
今、流行りのコスプレとかいうやつ?
でもこんなに堂々とやりのかな。
「お姉さん、聞こえる?」
「聞こえるって?」
なんだか怪しい少年に引き気味に聞き返した。
本音はあまり関わりたくないなぁ、なんですけどね。
「時計の音だよ」
「……時計の、音」
時計の音ならさっきから聞こえている。
少年と話している時だって聞こえ続けていたこの音。
どこからともなく聞こえて、響く音。頭に鳴り響く刻む音。
「君が言う『時計の音』がこれなら、聞こえるよ」
そう私が言えば、少年は驚いたように目を見開くと、次の瞬間には何故か涙を浮かべはじめた。
え、何。私は何もしてないよ? ただ少年の問いかけに答えただけなのに。
なんでだろう、いじめて泣かせてしまったようなこの微妙な心境は……!
一人、困ってあわあわとしていると、少年がポツリと呟いた。
「……けた」
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