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初めて会ったのになんだか懐かしいような。
……悲しいような。
「白ウサギ」
私をまっすぐ見る女の子の目と合う。
なんだろうか……。変に心臓が早い。
「白ウサギ、私にちゃうだい?」
「ちょうだいって」
わからない。冷や汗のようなものが流れたような気がした。
「白ウサギが持ってるはずなの」
「私が、…持ってる」
「そう、白ウサギ」
女の子が私の事を『白ウサギ』と呼ぶ度に感情が込み上げてくるけど、その感情が何かはわからない。
「 」
「リナ」
誰かが名前を呼んだ。
声がした方を向けばそこにはチェシャ猫がいた。
なんだか難しい顔をしている。
「チェシャ猫。なんでここにいるの?」
突然の出現に驚いていると、チェシャ猫はこちらに近づいてきた。
「……女王はどうした」
「女王様は用事があって一緒じゃないよ。私はこの子と…」
女の子を紹介しようと思ったのに、その女の子の姿はどこにもなかった。
「あれ?」
「誰かいたのか?」
「うん、さっきまでいたんだけどね」
何処に行ったんだろう。
今は私とチェシャ猫の二人だけだ。
なんだったのだろうか。
だけど私の頭に浮かんでいるのは。
『アリス』
それが女の子の名前かわからないけど、頭から離れない言葉。
すぐいなくなってしまったけどまた会える。
そんな気がした。
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