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私もその視線を追って上を見てみると、木の上に座っている若い男の人がいた。
その人の髪は赤紫で、その髪の間からは同じ色の動物の耳。そして尻尾。
私達を見下ろして口元を上げた。
「チェシャ猫。君のほうこそ散歩?」
黒ウサギ君が聞けばチェシャ猫と呼ばれたその人は笑みを浮かべながら首をかしげた。
「さあ、どうだろうな」
チェシャ猫はそう言うと、私へと視線を向けた。
「ただ…、懐かしい匂いがしたからなんだろうと思ってさ」
そう言い、彼は身軽に木から私の目の前へと降りてきた。
さすがは猫だなあ、なんて感心していると、いきなり顔を覗きこまれた。
「何ぼけっとしてるんだ」
「…普通いきなり目の前に来られたから驚くじゃない」
そう言えば「ふーん」なんてチェシャ猫は興味なさそうな返事を返して、人の事をじっと調べるように見てくる。
そんな事されたら誰もいい気分じゃない。
「何?」
「あんた、白ウサギか?」
「白ウサギ、なのかな?」
「微妙な返事だな」
チェシャ猫の言うとおり微妙な答えだ。
私は違うと思うけど黒ウサギ君はそう言うからそうなのかもしれない。
自分でもわからない。
チェシャ猫は軽く息をつくと、黒ウサギ君のほうを振り返った。
「お姉さんは白ウサギだよ」
「そうか」
黒ウサギ君の答えを聞いて、またチェシャ猫は私へと顔を戻した。
「あんた、名前は?役名に縛られてない本当の名前」
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