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「フィン、…フィンシア」
小さな子供が、前を行く男の服を引っ張りながら呼んだ。
「…なんだ?」
足を止め、少し気だるそうに男は振り返った。
「あれ、何?」
その子が指差すほうに目を向けると、そこには毛むくじゃらの生き物。
昼寝中なのかゴロンと伏せている。
「ああ、あれは犬だ」
「犬?」
「そう、犬」
男はそう答えると、歩き始めた。
小さな子もその後を慌てて追いかける。
キョロキョロと世話しなく周りを見ている子供と、前を坦々と歩いて行く青年。
二人の姿は親子のようにも兄弟のようにも見えてしまう。
ただ、親子にしては青年のほうは若く、見た目はまだ20歳前後のように見える。
子供のほうは7、8歳といったところだろうか。
それに長い髪を一つに結わえていて、ぱっと見では女の子にも男の子にも見えてしまう。
「フィン、あれは?」
「あれは猫」
「あれは?」
「雑貨屋」
「あれは?…」
何かを見つけては聞いてくる子供に、表情はやる気がないのだが答えだけはきちんと返している。
子供の方は無表情なのだが、目は輝いていてまるで初めて外を見たように何も知らないみたいにはしゃいでいる。
「これは木、だよね」
「そうだ。じゃあこれは?」
「葉っぱ…?」
落ちている葉をひとつ掴み、男は子供に聞くと、確かめるように答えた。
男が頷けば子供はあまり変わらないように見えたが、微かに笑った。
「クオン」
男は子供を呼ぶと、振り返った子供の頭に自分の手を置いた。
「時間はある。少しずつでいいからな」
「うん」
相変わらずの無表情だったが、真っすぐこっちを見て頷く子供に、親が子の成長を楽しく思うのはこんな感じなのかな?と思ってしまった男であった。
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