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『お前の名前はクオンだ』

『ク、オン?』

『名前が無いなんて不便でしかない。だからお前はクオンだ』

『クオン……』

『久しく遠くでクオン』

『久しく、遠く。……クオン』







「久しく、遠くでクオン」


本屋で見つけた辞書をパラパラとめくっていく。クオンの今のお気に入りだ。

お目当ての文字を見つけると、食い入るように見つめる。


「クオン」


呼ばれて顔をあげれば迎えにきたフィンシアが近づいてくるのが見えた。

フィンシアはクオンが持っている本を奪うと、そのままレジへと持って行ってしまった。


「そのままでいい、すぐ読む。クオン」


会計をすませたフィンシアに呼ばれ、レジへと急いで駆け寄ると今まで読んでいた辞書が手渡された。
驚きでじっとその辞書を見つめるクオン。


「いいの?」

「いい。ほら行くぞ」


歩きだすフィンシアの服をぎゅっと握りながらクオンは小さく呟いた。


「ありがとう、フィン。あのね、僕。……久遠ていう言葉、好き、だから」


そう言うクオンにフィンシアはクオンの頭をぐしゃぐしゃに撫で回した。









『久しく遠く。遠くまで限りなく続くというかなんていうか……。つまりお前もどこまでも自由なんだよ』

『……?』

『今はわからなくていい、いつかわかったらな。…自分の名前を好きになってくれればいいけどなぁ、どうだろ』




なったよ、フィンシア。



 


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