10
久しぶりにフィンシアは一人で部屋にいる。
前なら当たり前だったのに、こんなに静かなのが、何かが足りなくてしょうがない。
何故フィンシア一人だけか。
昼間にクオンが買い物に行きたいと言った。
『どこに行きたいんだ?』
『一人で…』
『ん?』
『…一人で、行きたい』
買い物の仕方もお金の数え方、値段やらなんかを教えた。
だから一人で買い物にだって行けないことはない。
「なんかなぁ…。嬉しいのに微妙な気持ち」
はぁ、とため息をついた。
そう、微妙なのだ。
クオンが一人で何でも出来るのようになるのは嬉しい。
けど何故だか嬉しいと思う反面、寂しいようななんというか。
「子供が独り立ちして寂しい親の気分?」
そう呟いた瞬間、なんだか気分が堕ちた気がしたフィンシアはまたため息をついた。
「ただいま……」
「お帰り」
しばらくすればクオンが帰ってきた。
「フィン」
呼ばれて顔を向ければ、クオンはフィンシアの近くまで寄ると、一輪の花を差し出した。
「紅いカーネーション?」
「今日、ありがとうを伝える日だから」
フィンシアはしばらく花を見つめ固まった。
なかなか受け取らないフィンシアに、クオンが不安げな雰囲気を感じたので慌ててカーネーションを受け取り、そして思い出した。
今日は親に対して感謝の気持ちを伝える日。
贈り物に紅いカーネーションの花を添えて相手に贈る日なのだ。
クオンはこの花をフィンシアにあげるため、一人で行きたいと言ったのだ。
本当は母親に贈る日なのだが、フィンシアにとって今はどうでもいい。
「ありかとう、クオン」
フィンシアはいつもよりありがとうを込めてクオンの頭を撫でた。
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