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そう、もう50年もたっている。
だけど彼がまだここにこうして居るということは、約束はまだ果たされていないということ。
この50年間、私が話しかけるまでずっと独りで、誰にも見えない存在になってまで。
−哀しい人だ
「何か言いました?」
「いいや、別に」
私は彼から顔を逸らすと立ち上がった。
「帰るのですか?」
「一旦ね。家に本でも取りに行ってくるよ。また戻ってくるから、…つまらないでしょ?」
「そうですね。喋る相手がいないとつまらないですからね」
「それじゃ、ちょっと行ってくる」
いってらっしゃい、と手を振り微笑む彼につられて私も微笑み返した。
誰も彼には気付かないで通り過ぎて行く。
それでも彼は待ち続けてるだろう。
それがこの先、何年、何十年となっても、……例え叶わない事であっても。
彼はここであの人との約束を守り続けるだろう。
例えそうなることになったとしても。
私はただ彼がそうしているのを見ていることしかできない。
神様なんて私は信じたことはない… だけど私は願う。
神様じゃなくても誰でも良い、私は祈ります。
私では叶えることが出来ないから。
あの哀しい人に −『愛(かな)しい』人に
誰か彼に”光(あの人)”を…
『私じゃ何も出来ないから…』『願望の中のガンボウ』 end
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