あいつは気づくと島の中央を見ていた。
普段はへらへらしているくせに、ふとした瞬間には真剣な顔をして中央を見ていた。


じいさんの弟。
よく話していたじいさんの弟の話し。

ずっと眠ってるって言っていたが、信じる信じない以前の話しだと思っていた。


ただのじいさんの話し。そう思っていた。








「お兄さん、いつも中央街を見てるけど、何かあるの?賑やかな街に憧れてる?なら橋渡ればもっと大きな街に行けるよ」


数年前に大きな橋がかかり、他の島にも渡れるようになった。


「別に憧れてるわけじゃないんだけどね」

「それじゃあ、中央街に何かあるの?」

「僕の話しは聞いたことある?」

「あるよ。おじいちゃんがよく話すんだもん。もう何回も何回も聞いたよ」

「あはは!兄さんらしいや」


俺も何回も聞いた。じいさんの弟の話し。
ただのじいさんの話し、そう思ってた。


「彼女、……か」

「ん〜、そうだね。彼女があそこにいるからつい見ちゃうんだよね」

「なんだかお兄さん、その人に恋してるみたい」


なんてね!と言ってにっこり笑う妹に、そいつは一瞬目を見開いたがすぐにいつものへらっとした顔になった。


「そうだね、僕は彼女に恋をしているんだ。あの時から今もずっと」




『たぶん僕は彼女を愛していたんだ』






いつもの顔に混じった哀しそうな笑顔。
どうしてだろうか、泣いているように見えるのは。

 

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